新年に寄せて

一般財団法人日本データ通信協会
理事長 酒井善則

 日本データ通信協会が設立されてから今年で48年目になる。48年間協会の活動を支えて頂いた皆様、機関誌をご愛読頂いた皆様に改めて御礼申し上げたい。今年の年末年始はコロナ禍の影響を受ける初めての年末年始で、今後社会が大きく変わることが予想されている。ディジタル化はわが国の大きな目標となっているが、既にオンラインはコンピュータ通信技術者だけが使う用語ではなく、オンライン飲み会、オンライン診療、オンライン授業のように我が国の殆どの人にとって馴染みのある言葉になっている。モノの通信であるIoTもオンラインの一つである。オンラインについてはそのシステムの使いやすさ、セキュリティ等について大きな課題があることは良く知られている。使いやすさも電話と異なり、利用する人の年代、知識によって大きな差がある。要求されるセキュリティレベルも飲み会と診療、金融では大きく異なる。

 セキュリティについては、サイバー攻撃等による被害が毎年のように発生して、対策が講じられている。自分でテレビ会議を使っていても、誰が聞いているかよくわからないと思うと言葉に慎重になってしまう。IoTでも、測定したデータ等そのものを改ざんされた場合、大きな事故にも繋がる。自動運転の車で、前の車との距離等を改ざんされると、人命にかかわる事故となるかもしれない。これらの改ざんはソフト的な攻撃とともに、物理レベルの妨害でも生じる可能性がある。

 情報セキュリティについては、情報の信頼性を重視する情報トラストの概念に広がりつつあるが、サイバー攻撃等によりトラストが失われる確率とともに、失なわれた場合の損害の定量化は容易ではない。サイバー攻撃による損害額も推定されていて、年々増加しているとのことであるが、現状、損害の大部分は情報漏洩に起因するもので、IoT、遠隔医療などに起因する損害は十分推定されていない。また損害が生じた場合に誰が負担するか、すなわち誰の損害になるかも、裁判による判例でも増えないと推定できないのかもしれない。暗号強度、通信の安全性等は数学者、技術者が推定できるかもしれないが、損害額の推定等は数学、法学、経済学、工学などの総合的な研究課題のように思える。多くの分野が共に研究する新しい分野が生まれているように感じられる。

 日本データ通信協会は、電話よりはるかに複雑なポストコロナ時代の新しいディジタルシステムを、多くの年代の方々に電話のように安心して使って頂けるように、コンサルティング業務まで可能な通信技術者の育成に努力している。更に、情報トラスト分野の調査、認定活動を通じて、個人情報保護から技術的、法律的な多くの課題の整理を行っており、新年度は各学会の方々と協力して、新しい学問分野を立ち上げる役割を担えないかと考えている。今後の日本データ通信協会が新しい時代に新しい役割を果たしていくことを皆様にご援助頂きたいことをお願いして、新年のご挨拶としたい。