LPWAが拓く地域のIoT社会:KDDIにおけるLPWAの活用事例

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KDDI株式会社
ビジネスIoT推進本部 地方創生支援室
室長  阿部 博則 氏

 本稿は「第48回日本データ通信協会ICTセミナー」(2018年9月18日、日本橋社会教育会館)で行われたKDDI㈱ビジネスIoT推進本部地方創生支援室長の阿部博則氏による講演「LPWAが拓く地域のIoT社会―地方創生におけるLPWAの活用事例」の内容を編集部で取りまとめたものである。KDDIは、我が国の成長にとって必要不可欠な地方創生の課題を、ITテクノロジーで支援する積極的な取組みを続けている。本講演では、そうした同社の実績の中から、LPWAを活用するものを中心に最新の事例を紹介していただいた。

地方をめぐる社会環境の変化とKDDIのM2M/IoT分野への取組

 私はもともとソリューション系のSEだが、東日本大震災の後に復興支援室という組織を立ちあげ、5年間仙台を拠点に活動した。その後、2017年4月に東京に戻って地方創生支援室長として活動をしている。
 今日、ビジネス領域で特に期待されている一つが、IoTの分野である。弊社が進める地方創生へのIoT利活用の取組について、本公演ではLPWAの導入事例を中心に紹介したい

 我が国では人口減少と少子化が進んでいる。機を同じくして1次産業の人口は右肩下がりであり、人口は都市部に集中している。1次産業のIT活用に注目すると、携帯電話やパソコンは普及しているものの、それらを生産活動に十分に生かせているとは言えないのが実情である。農業経営者の方には、IT利用に対し不安を持っていたり、自信がなかったりする方が多いようだ。このあたりは、ICTの技術が十分に成熟していないことを示しているとも考えられる。

  1次産業とともに社会インフラの老朽化も注目しているポイントで、道路、トンネル、河川の水門など、人手が減り、設備が老朽化してメンテが行き届かないようなものが出てきている。そこをIoTを用いて支援できるのではないかと、私どもでは検討や模索を続けているところである。

 KDDIでは、M2Mや、ユビキタス、センサーネットワーク、テレマティクスなど、呼び方は変わってきているものの、継続的に組込型ネットワークに取り組んできた。そのなかで、 今日、 高速大容量の5Gとともに、LPWAは省電力低コストの規格として注目されている。LPWAは、理論値では電池2本で10年稼動するといわれており、電波の届く範囲が広い。また、伝送速度を抑えている分、コストも安く済むという特徴がある。
 当社は、LPWAの商用サービスを2018年1月から開始しており、回線数が多いケースでは月額40円からご提供している。

 様々なデータ取得環境を安価に素早く構築できるLPWAは、地方創生の分野でも地域課題の解決に向けた活用が始まっており、本講演では、LPWAを活用した8つのプロジェクトを紹介したい。紹介するのは、技術検証がメインの「実証」プロジェクトから4例、社会システムとして「実装」された事例から4例である。

実証プロジェクト事例

①農業IoT実証事業(沖縄県宮古島市)

 最初に紹介するのが、沖縄の宮古島で、マンゴー栽培に活用した事例である。このときはLoRaWANを使ったが、栽培時の照度、温度、湿度、二酸化炭素濃度などの計測を行った。マンゴーの生産を安定化させたいという現地のニーズに応えたプロジェクトだが、マンゴーは単価が高い果物であるため、ある程度コストがかけられるのも実施ができた理由の一つだ。データをとって品質管理に役立てられるところまでは検証ができた事例である。

②農業IoT実証事業(北海道帯広市)

 帯広市では、そろそろ息子さんに農業を引き継ぎたいという農家のニーズを基に、種をまく時期、農薬の散布時期、水やりのタイミング等を可視化するプロジェクトを実施した。後輩の方、後任の方が、素早く知識を取得するためのデータはとれたのかなというふうに思っている。

③スマートなゴミ箱(沖縄県那覇市)

 那覇市の国際通りに1週間ほどゴミ箱のゴミの容量を計測する仕組みを入れて実証を行った。ゴミ箱の中身がわかれば、満杯になる前に回収車を出動できるという発想で、リアルタイムにゴミ箱の状況が見える仕組みをつくり、当初のニーズを満たすものができた。実装には、例えば、ゴミの量がいっぱいになるのが速い場所には、早く回収車を出すよりも大きいゴミ箱を設置すればよいであるとか、交通渋滞のために目的の時間にゴミ箱にたどりつけるのかなどの課題があり、地元の自治体と今後について検討を続けているところである。

④マンホールIoT実証(神奈川県厚木市)

 神奈川県の厚木で行った、ゲリラ豪雨などに対応するための取組である。都市では、急に雨が降ってくると、マンホールから急に水があふれてしまうことがあるが、このマンホールにセンサー機器をつけて水を感知すれば、自治体が近隣の住民に避難指示等の情報を発信できる。技術的に難易度が高い仕組みではないが、実際にやるには、住民に対する周知の仕組み全体を構築する必要がある。

実装プロジェクト事例

 次に社会システムとして活用され始めた例を紹介させていただきたい。

⑤村民の暮らしサポート(長野県小谷村)

 長野県の小谷村(おたりむら)では「誰もが、最後まで自分らしく、住みなれた場所で暮らし続ける村」を目指して「おたり54プロジェクト」という取組を行っている。小谷村では、現在約3,000人の住民が、30年後には1,000人になるという将来予測がある。この予測を基に、福祉、介護、医療、子育てなど様々な課題を議論し、安心、交流、居場所、楽しみなどをつくっていこうという試みであり、このなかでICTも活用したいということで、私たちも参画をさせていただいている。
 特に関わらせていただいているのが「村民の暮らしサポート」で、村民の方々の悩みを村民の方中心に解決しようとする共助の仕組みをつくるために「生活支援情報連携システム」を構築し、解決事例を蓄積しようとしている。このシステムではSigfoxを使い、3ヶ所に基地局を建て、2018年1月からスタートしている。高齢者の方々にも使いやすい仕組みとするにはどうすればよいか、運用方法を含めた知見を収集している。

⑥鯖、復活プロジェクト(福井県小浜市)

 総務省の「地域IoT実装推進事業」として、福井県小浜市で鯖の養殖事業に関するプロジェクトを実施している。小浜市は昔から鯖で有名であり、昭和中期には水揚げが年間1万トンもあったのだが、近年の漁獲量は激減し、小浜市内で消費されるものも大半がノルウェー産という状況である。こうした状況を打破するために、小浜市は福井県立大学や当社と2年前から養殖効率化事業を始めている。勘と経験とで行っていた水温管理等でIoTを導入、データをクラウド環境に蓄積し、タブレットを用いてリアルタイムデータに基づく管理を実現している。今後はデータストック環境をLTMに変更していく予定で、それによって、通信料金を大幅に削減できるであろうと踏んでいる。
 現在、蓄積したデータを基に、さらに効率を追及するための追加施策を検討している。

⑦スマート農業プロジェクト(兵庫県豊岡市)

 兵庫県豊岡市はコウノトリと共存する町として有名で、現在100羽を超えるコウノトリが生息している。同市では農薬散布を最小限にとどめ、コウノトリが餌としている虫を殺さない農業を実践しているが、そのためには、雑草が生えにくいように田んぼの水位をコントロールしていく必要がある。従来は、田植えの後、水位を5~8cmに維持するために頻繁に見回りをし、その作業に大きな労力がかかっていた。
 そこで2018年5月から水田センサーを設置し、タブレット端末で水位が見えるようにした。LTMをKDDIとして国内で初めて使った例である。これによって目視確認の頻度がだいたい3分の1になった。また、豪雨があったときは、田んぼの水没状態がわかるので、防災面の効果もあった。今後プロジェクトを定着させていくためには、収益増の並行施策は必要で、何よりも水門との連動など次のステップが必要になってくる。

⑧共有型とやまものづくりIoTプラットフォーム(富山県)

 富山県では、中小企業の生産性を上げるプロジェクトを、富山県立大学を中心にスタートさせ、弊社も参画させていただいた。中小企業の方々が共通に使えるプラットフォームがあれば生産の効率化できるというのがプロジェクトの出発点で、まず状況を可視化をし、ノウハウの共有ができるポイントを明らかにして、全体の生産サイクルを上げていきたいと考えた。
 参画していただく中小企業には、生産機械ごとにセンサーを設置し、LTEやLPWAで稼働データを収集する。データはクラウド環境に吸いあげて富山県立大学の先生を中心に解析を行う。AIを活用して効率化を図っていくといったところまで今年度中に完成させたいと考えている。

本日は8つの事例をご紹介させていただいたが、KDDIでは、その他にも全国の様々な場所で地域活性化のためのプロジェクトを実践している。それらの中には、位置情報を使ったもの、ドローンを使ったもの、5Gを使ったものなどさまざまソリューションが活用されている。

 これらは、通信環境だけつくればできるかといえば、必ずしもそうではなく、トータルな環境づくりが課題解決をしていくうえでは非常に必要である。よりお客様の視点に立った、お客様に寄り添った活動にシフトしていくことが求められている。お客様のつながりの形態や多様化の流れは、日々変化しており、私たちもそれらをしっかりと捉えるとともに、進化していくテクノロジーをどうビジネスモデルに反映させるかを、日々お客様と一緒になって考えていかなければならないと感じている。