LPWAの魅力と今後の可能性

株式会社情報通信総合研究所
ICTリサーチ・コンサルティング部
上席主任研究員
岸田 重行 氏

 本稿は、「第48回日本データ通信協会ICTセミナー」(2018年9月18日、日本橋社会教育会館)で行われた㈱情報通信総合研究所の岸田重行氏による講演「LPWAの魅力と今後の可能性」内容を編集部で取りまとめたものである。岸田氏には、IoT普及にとって必須のパーツと見られているLPWAの普及の現状と今後の可能性を俯瞰していただいた。

LPWAに求められているもの

 本日は、LPWAがどのように注目されてきたのかについて、海外や国内の事例を中心に紹介したい。
 現在、LPWAは、IoTのための通信方式として、多くの業界から注目されているが、そもそもIoT自体は、特定の通信技術に縛られるものではない。用途によって適切な技術を使えばよく、選択肢はいろいろなものがある。
 

一方、無線通信が一般向けに大きく普及したのはポケベルからだが、それ以降、4G携帯に至るまで、その主な用途は「人が使うための通信」だった。技術的には「高速・広帯域化」を目指して進化し、長らく「エリアカバー率」や「人口普及率」が普及の物差しだった。

 ところが、5Gが導入されると無線技術が様々な社会基盤に実装されてくる。IoTへの利用を考えると、大きく2つの方向性、すなわち、信頼性や可用性が求められる「クリティカルIoT」と、低コストや省電力が求められる「マッシブIoT」があるが、今日のテーマであるLPWAは、まさに「マッシブIoT」の用途に適応する。LPWAは、これまでの技術がほとんど扱ってこなかった「電波の距離は飛ぶが電力の消費量は少ない」という空き地を埋めるものだからだ。(図表1)

図表1
出所:㈱情報通信総合研究所

 IoTでは、普段のメンテナンスを行わずに放っておいても、何年も動き続けてくれる機器へのニーズがある。図表1のような画を描いても、ニーズがなければそれまでの話だが、これだけLPWAに多くの企業、多くの業界から注目が集まっているのは、やはり、そのニーズに誰もが気がつき始めているということではないかと思う。

 日本では、LoRa、LoRaWAN、Sigfox、セルラー系がLPWAの選択肢となるが、その用途に応じて、最適なネットワークと通信方式があり、IoTだからこうでなければならないという決めごとはない。公衆網、自営網を含めて、どのようなネットワークを構成するのか。マルチホップを導入するのか、カバレッジをどの程度に広げていくのかなど、利用シーンに応じて、さまざまなネットワークの組み方がある。

海外では実用サービスが続々登場

 それを前提に、これまでに、どのようなユースケースが実装されているのかを紹介してみたい。
 LPWの、もともとの火つけ役はフランスのSigfox社だが、同社の資料を見ると、さまざまな産業に対し、効率的なソリューション提供できると主張している。日本では、現在は実装実験が進む段階で、その中からどのような用途が根づいていくのかについては未知数だが、海外では、どちらかというと実際のソリューションから入っていって、それが広がっていった、そのために動きも速かったということがある。

 毎年、バルセロナで開催される無線業界最大級のイベント「モバイル・ワールド・コングレス」でも、3、4年前からLPWAを含め、IoTの話がずいぶんと扱われるようになっている。図表2の写真は同イベントでのファーウェイの宣伝例だが、自転車にセンサーをつけたサイクルシェア、大気汚染への対応、エアコンの制御など、さまざまなユースケースを示している。

図表2
出所:㈱情報通信総合研究所

 少し変わったところでは動物愛護分野での利用がある。イギリスの事例だが、ある大学教授が、アザラシの頭にセンサーデバイスをつけて普段の生活を追尾し、それをビッグデータ化して、見える化し、今後の保護につなげていくといった取組が行われている。

 物流にも事例がある。国をまたいで船や飛行機で輸送を行う場合、パレットの紛失がかなりある。また、パレット自体の配置や動線を把握できれば、それによって業務の効率化に直結している。こうした機材にLPWAによる通信を組み合わせることで業務の管理効率が向上しているケースがアメリカにはある。フランスのミシュランが、Sigfoxを用いてコンテナの追跡をするプロジェクトに参画していたりするのも、同様な例である。

日本では公共インフラ周りの試行から導入が進む

 日本国内はどうなのか。よく見られるのは、スマートメーターでの活用である。神戸市は水道スマートメーターによる業務効率化を行っている。スマートメーターは日本では電力業界で導入され、ガスや水道にも広がっているが、今後も電力、ガス自由化など業界の変化に即してLPWAが活用されていく可能性がある。

 もう一つしばしば行われているのが、ゴミ箱の管理である。ゴミ箱のソリューションは、ゴミ収集の運用方法の違いによって国や地域でずいぶん効果の出方が違ってくるものの、空っぽのゴミ箱にはゴミ収集車は行かなくてもいいし、満タンになりそうだったら早めに行かなければならないので、「見える化」でずいぶんと運用が効率化できる。アムステルダムで実施したら、ごみ収集車の数が半分で済み、交通渋滞が大きく減少したという話がある。一概には言えないが、産業ごみでも需要があるかもしれないと聞いたりもする。

 同じように、「見える化」の文脈で出てくるのが、水田の水管理のような農業系のソリューションである。人が現地に行って計測していたり、人の勘に頼ってやっていたりするものをうまくデータ化しようという流れである。

産業系・消費者系の用途も続々登場

 エンドユーザ向けのものも登場している。博報堂アイ・スタジオが手がける「TREK TRACK」は、通信がなかなか届きにくい登山者の安全を確保するためにサービスとして提供している。

 見守り支援は、パレットやゴミ収集車同様、移動を管理するという意味で、消費者向けのオーソドックスなソリューションである。それがさらに包括的になると、市がさまざまなニーズをネットワークにつなぐことで解決しようという「スマートシティー」のようなコンセプトにつながり、福岡市のように、自治体で前向きに取り組んでいるケースがある。都市の中のモニタリングという用途には、トイレのモニタリングもあるし、空間のモニタリングもあるし、駐車のモニタリングなどもある。さまざまな「見える化」につながっていき、場合に応じ、それをAIで自動的に分析するというところまでいく可能性がある。

 日本瓦斯株式会社というガス会社は、設備をプラットフォーム化し、自社で使うシステムを他社にも提供している。同社は、ガス会社ばかりではなく、他の産業にも使ってもらうという戦略を展開しており、LPWAのネットワークをプラットフォーム化していく動きは、これから、さまざまに広がっていく可能性がある。

 ネットワークとして公衆網を使うケースもあれば、自営網で行うケースもあるものの、こうした事例の大半がSI絡みである点は、現在の導入事例の総じて言える特徴である。だが、今後、広域をカバーしようとすると、LPWA対応の大手モバイル通信業者のセルラー網にも需要が出てくるだろう。

第3の形態「シェアリングモデル」は普及するか

 1997年ぐらいから登場したのが「シェアリングモデル」である。LPWAを用いたIoTのネットワークには、通信事業者が提供する公衆サービス、または企業や個人が自分で機器を購入して作る自営網が使われるが、それだけではない形態が出てきている。

 国内ではソラコムが少し前に発表したものがある。ソラコムは、AmazonのAWSとネットワークを簡単につなげ、手軽にIoTを組める点を狙ってサービスをしている会社である。その選択肢として「共有モデル」がある。1つのアクセスポイントを複数で使い、自分専用の設備ではないが、その分料金が安くなる。公衆モデルほどではないけれども、何人かで使う。ソラコムは、これを「LoRaWANのシェアリングエコノミー」といったコンセプトで紹介している。

 海外では、すでに先行事例がある。その1つがTrackNetという米国の会社である。この会社は、子どもの見守り用に、LoRaを用いたデバイスを子供のバックやリュックに忍ばせ、センサーとクラウドを用いて、そのエリア内での子どもの行動を把握できるといったサービスを提供している。
 当然、ユーザは家にアクセスポイントを置くわけだが、子供がこのアクセスポイントのエリアから外れてしまうと見守りができなくなるので、近所にもっとアクセスポイントを置きたい。そのアクセスポイントのカバレッジを利用者で共用しながらサービスを広げていこうという取組である。

 同様の取組を行っている事例として、The Things Networkという会社がある。これも同社の機器を買った人が、同じ機器を買った人とネットワークをシェアしようという仕組みだが、こちらは全世界にアクセスポイントを持っており、それらを用いた様々なアプリケーションの開発を促している。ある一線を越えてブレークするとグッと伸びるポテンシャルを有している。

LPWAの利用モデルはアクセスポイントの所有形態と利用形態とで4つに整理できる(図表3)。これまではSIモデルや公衆網の利用が中心に考えられてきたLPWAだが、普及するにつれ、システムとしてではなくサービスとして、一般消費者も含めて広がっていく可能性があると考えている。

図表3
出所:㈱情報通信総合研究所