第5世代移動通信システム(5G)の早期展開に向けた総務省の取組

総務省総合通信基盤局 電波部
電波政策課長  布施田 英生 氏

 本稿は2019年10月11日に大阪OBPクリスタルタワーで開催された総務省総合通信基盤局電波部の布施田英生電波政策課長による講演の内容を編集部において取りまとめたものである。「5G」ほど熱い視線を注がれているサービスは今日の電気通信サービスにはないと言ってもよい。
 講演では総務省の電波行政を担う布施田課長に、5Gにまつわる政策の全体像をつぶさに語っていただいた。我が国の5Gの現状と将来を理解する上で、現時点で最良のテキストである。

■はじめに

 総務省総合通信基盤局電波部電波政策課で課長をしている布施田と申します。電波には、低い周波数ではアマチュア無線から放送、高い周波数では携帯電話や衛星通信など様々な無線の使い方があり、私ども電波政策課はその周波数割当をしている。本日は総務省における5Gの取組を紹介させていただきたい。

■移動通信システムの進化と5Gの登場

 携帯電話の契約者数の伸びを1997年から今日に至るまで見ると、現在1億7千万台の契約があり、平均して一人1台以上の携帯電話が使われている計算になる。トラヒックの伸びはここしばらく1.4倍程度の伸びを毎年続けてきており、直近でみても1.2倍の増加を示している。使われる台数も、そこを流れる情報の量も増えている。

 移動通信システムはほぼ10年おきに世代交代をしてきている。1980年より少し前に携帯電話が出てきたが、当初はアナログ方式でこれを第1世代と呼んでいる。デジタル方式の第2世代、世界共通のデジタル方式の第3世代、2010年頃からは「LTE-Advanced」の第4世代となり、2020年からは第5世代、いわゆる「5G」が登場するということになる。
 この流れを見ていると、2030年には当然のごとく第6世代が出てくると想像され、研究者の皆さんはこれを目指して研究を続けているところである。

 5Gとは何かについては盛んに言われているので、ご承知の方が多いとは思うが、整理しておきたい。3つの主要な性能を有しているのが5Gの特徴である。
 第1点目が「超高速」であり、2時間の映画が3秒間でダウンロードできるようになる。
 第2点目が「超低遅延」で、情報の遅延を意識することなく操縦者はロボット操作等ができるようになる。
 3点目が「多数同時接続」である。IoTの時代になり、すべてのものがネットにつながっていくと言われているが、本格的なIoT時代を支えるのが5Gである。速いだけではなく、超低遅延に対応し、一つの基地局に多くの端末がつながる多数同時接続ができるのが大きな特徴である。

(出典:総務省)

 4Gと5Gの時代では、産業構造も変わってくる可能性がある。
 これまでの4Gは、基本的には端末が人にぶら下がっていて、その方々にサービスの使用料を支払っていただくのが基本的なビジネスの形だったが、5Gになると様々な分野で様々な機器がつながり、また使われることになり、端末の接続数が増大していく。自動車、工場の中の工作機械、家の中のスマート機器など様々なモノが安価な料金でつながっていく。これによって産業の裾野が広がっていくことを想定しながら現在取り組んでいるところである。

(出典:総務省)

 5Gの世界がどうなるのかについて、総務省では関係者の方々とイメージビデオを作ってみた。これはYou Tubeで配信されているので、ぜひご覧いただければと思う。

 このムービーで紹介するような世界がやってくることをイメージして、現在取り組んでいるところである。

■各国で始まる5Gサービスと我が国の取組

 ご承知の通り、周波数帯は高くなればなるほど、伝達できる情報量は多くなる。700メガヘルツ、800メガヘルツから順次割当を行ってきたところだが、来年から始まる5Gは一番右側の3.7ギガヘルツ、4.5ギガヘルツ、さらに飛んで28ギガヘルツという非常に高い周波数帯まで使うことになっている。
 高い周波数帯を使うことでエリアも小さくなるため、多くの基地局が必要になる。

(出典:総務省)

 この5Gの流れは、今世界中で起きており、最近の新聞を読んでいると、5Gについての記事が必ずどこかにあるような状況である。現在、ちょうど各国でサービスが始まろうとしている。
 いくつかの国を比較してみると、日本は来年の春からサービスを開始する。ラグビーのワールドカップが現在行われているが、このタイミングでプレサービスを始めている。日本の特徴は、来年春のサービス開始時から皆様の持って歩く移動通信サービスを想定し、各事業者の皆様が準備を進めているところにある。
  アメリカは出足が早く、2018年の10月から固定系として街角の電柱から住宅への画像伝送などのサービスが始まったところである。今年の4月からは移動通信が様々な都市で始まっている。
 中国でもすでに始まっている。北京の郊外にゼロから都市を造ろうという大きなことをやっており、最初から光ファイバを引き、5Gを入れるという巨大な試みを始め、そこで様々なサービスを出していこうとしている。
 韓国は今年の4月に開始している。世界で一番乗りを意識しており、アメリカの企業と競争しながら世界で最初にサービス化を行った。今年の6月の段階でユーザーはすでに100万人を超えているという情報もある。
 EU各国も各地の都市でサービスが始まっている状況である。来年には世界のあちこちでサービスが行われることになるだろうと見られている。

 5Gの商用サービスが2020年には始まるという認識を関係者は以前から持っており、それを目指して研究開発に取り組んできている。もちろん基礎研究は各事業者の皆さんが行っていたが、国の予算を使った研究開発も2015年度から始まっている。2017年から実証実験のフェーズに入り、2018年の終わり頃から電波の割当についての手続きが始まった。今年の4月に各事業者に電波を割り当てたところである。2018年の途中には、5Gをどのように使うのかについてアイデアコンテストも行った。2019年、まさしく現在だが、ラグビーワールドカップに合わせて各会場で様々なプレサービスを試行しているところである。来年のオリンピック/パラリンピックまでには4つの事業者すべてに5Gを始めていただくことになる。世界の先頭グループとして5Gを実現しようという意気込みで取り組んでいる。

(出典:総務省)

■5Gの周波数割当と全国展開

 5Gの電波割当をどのように行ったのかを紹介したい。これまでの携帯電話は人が使うことを中心とした考え方であったが、5Gの場合にはあらゆるものがつながっていくことが想定されるため、人が生活している都市部だけではなく、産業展開の可能性がある場所については電波をカバーできるようにしていこうと考えた。また、地方での展開ができるようにしようとしている。地域の課題を解決するであるとか、地方創生などのために地方にもしっかりと展開するということを考慮している。

 次の図には「開設指針指標ポイント」という表現があるが、この開設指針というのは、電波を使っていただく条件のようなものを明らかにしたものである。その条件としては、「全国への展開可能性の確保」、「地方での早期サービスの開始」、「サービス多様性の確保」を申し上げている。

(出典:総務省)

 全国への早期展開について説明をさせていただきたい。この際、人口に着目するのではなく、エリアの面積に着目しているところが特徴となっている。つまり全国を10キロ四方の網目に切ると、人が活動できるエリアは約4、500メッシュが存在する。この約4、500のメッシュの半分以上に対し、5年以内に5G高度特定基地局を整備することを求めているのが1点目。2点目が、2年以内に全都道府県でサービスを開始すること。3点目として、できるだけ多くの基地局を開設することを求めている。

 従来、第4世代までの携帯電話は人口に着目をしていた。そうすると、大都会とその郊外をカバーすることでほぼ7割、8割を満たすことになる。ということは農場であるとか、林業の主体となる山地、あるいは場合によっては郊外の観光地のようなところが整備エリアから外れてしまうことになる。
 5Gではそうではなく、面として展開していく。都市部だけでなく、郊外にある工場や観光地、スポーツスタジアムなどもカバーしてもらう。

 10キロ四方の中に基地局を置く。そこまでは大容量の光ファイバをしっかりと引いてもらう。なぜ10キロメッシュで考えたのかについて、しばしばご質問を受けるのだが、10キロ四方であれば、ニーズに応じ、中継機を置かずに光ファイバを引いて基地局を展開できるため、広範な全国展開が可能になるであろうという考え方に基づいている。また、平均的な生活・産業圏が居住地から概ね10キロ以内ということもある。

(出典:総務省)

 このような条件を決めながら公募を行い、携帯電話事業者の方々に応募をしていただいた。その際に、どのような基準で審査を行ったのかをご紹介させていただく。
 まず申請者が満たすべき最低限の要件への適合を審査する「絶対審査」を行った。先程ご紹介した5G基盤展開率を50%以上とするだとか、2年後に全都道府県で運用を開始するなどの「エリア展開」もここに含まれている。
 その上で各事業者間の「比較審査」を行った。50%以上の基盤展開率を求めた上で、より広く展開を計画する事業者を優先する、基地局の数が多い事業者を優先するなどの審査を実施した。

 今年の1月から受付を行い、5社4グループの申請が行われた。分厚い申請書の中からいくつかの数字を抜き出して比較したものが次表である。
 サービス開始時期は微妙に異なっている。基地局整備には膨大な費用がかかるわけだが、その数字も提示していただいている。これらについては確実な財政基盤の有無を見ることになるが、事業者によって差があることが分かる。全国のメッシュの何%をカバーするかという基盤展開率を見ると、かなり大きな開きがある。その基盤を何局の基地局でカバーするのかについても出していただいている。また、他社にネットワークを貸す「MVNO」についてもその規模を尋ねているが、大きい数字であればあるほど対応性があるという見方ができる。

(出典:総務省)

 このような点について審査を実施した。割当の結果は次図の通りである。  3.7GHz帯と4.5GHz帯は技術的な特性が同じなのでひとまとめとして考え、全部で6枠である。1枠100MHzの帯域幅がある。そこに4グループの申し込みがあったので、このうちの2グループには2枠ずつ、残り2社には1枠ずつとなっている。

  3.7GHz帯と4.5GHz帯は電波の特性上、広い地域をカバーしてもらいたいと考えている。その下が28GHz帯という高い周波数帯である。ここはスポット的なニーズに応えるような、小さい基地局を多数設置するような運用がなされるものと考えている。4枠に対し各グループで1枠ずつ割り当てている。こちらは1枠が400MHzの幅となっているため、様々なサービスの展開が想定される。

(出典:総務省)

 今年の4月に割当が行われ、2年以内にサービスを全都道府県で開始するということなので、2021年3月末までには47都道府県でのサービスが始まることになる。割当に際しては、様々な条件を付し、各事業者に整備をお願いしている。

■年々充実の度合いを増す「5G総合実証実験」

 今、事業者では様々なサービスを準備していただいているところだと考えているが、5Gで可能なサービスが何なのかはかねがね議論がなされている。5Gの場合には、従来の携帯電話サービスに比べて様々なニーズに応えられるため、ニーズのあるところでしっかりとサービスを作っていただきたい。そこで、5Gをどうやって使うかについての「5Gアイデアコンテスト」も開催し、それに基づいて各地域で実証試験も行っている。
 下図は5Gの使い方をデモンストレーションするような意味合いで活用しているものである。左側には「労働力」、「地場産業」など様々な8つの課題を挙げ、それらに対して5Gを活用して何らかの解決ができるのではないかと取り組んでいる。2017年度、2018年度と次第に数も増え、内容も充実してきている。 2018年度にはアイデアコンテストも開催し、その結果も加えて2019年度の取組を行っているところである。

(出典:総務省)

 アイデアコンテストには785件もの応募をいただいた。総務省の全国11の総合通信局で一次選考をした上で二次選考を1月に行い、様々なアイデアをいただいた。これらを含めて地方ごとに取組を進めている。
 地方からの声は大きく、例えば全国知事会の今年度の要望書でも、政府に対し5Gを含めたICTへの取組が求められているなど、地域にとって5Gが重要な政策課題としてしっかり認識されているのが見て取れる。

 本年度の5G総合実証試験は8つのカテゴリーにわたり21箇所で取り組んでいきたいと考えている。各自治体に入っていただき、現場において必要な取組を行う。様々な業種の方が参加していることが次表で見て取れると思う。

(出典:総務省)

■「ローカル5G」への期待

 ここまでご紹介したのが全国展開型の5Gであるが、地域ごとのニーズに応えていく、スポット的なシステムに「ローカル5G」がある。地域の企業や自治体の皆様に電波を使っていただき、構築するのがローカル5Gである。
 全国展開する事業者の5Gはあるものの、エリア展開がすぐに進まない場合であるとか、明らかなニーズがあり独自の展開を行いたいと考える場合などに「ローカル5G」という選択肢もあるということである。

  「ローカル5G」 の技術は、全国的に事業者が行う5Gと基本的には同じであるが、ユーザーである企業等が自ら設備を設置してサービスを利用するもので、自分たちが思うように設備を使え、また、例えばゼネコンが工事現場で利用し、1年後に別の場所に現場ができたときに、そこに設備を持っていくといったことも自由にできるようになる。工場のスマートファクトリへの導入であるとか、大きなスタジアムでの警備会社のイベント管理、自治体の河川管理など有用な用途がいくつもあるように感じている。

(出典:総務省)

 このローカル5Gの電波は、当初は28GHz帯の中に100MHz幅を用意し、ここを使っていただく。帯域は狭くなるが自由に使える。この仕組みを実現するための制度整備に現在取り組んでいるところである。問い合わせも非常に多い。
 近い将来には、利用できる帯域を29.1GHzまで拡張しようと考えており、あと1年間をかけて検討をしたいと考えている。

 技術的なことになるが、現在の5Gは端末制御のための信号のやりとりをするためにLTEのネットワークの上に載せなければならない。したがってローカル5Gをやろうとすれば、LTEのネットワークを借りなければならない。これは携帯電話事業者のネットワークでもよいし、地域BWA事業者から借りてもよい。来年以降には5Gだけで稼働する5Gネットワークも国際的に標準化され変わると思うが、現時点ではこうした要件の上でローカル5Gが始まることになる。

■ICTインフラ地域展開マスタープラン

 このような5G、ローカル5Gを地域にしっかり展開してくために、今年の6月に「ICTインフラ地域展開マスタープラン」を策定・公表した。これは「4G/5G携帯電話インフラの整備支援」、「地域での5G利活用の推進」、「光ファイバの整備支援」をすべてパッケージした計画である。

 具体的には、2023年度までの約1.6万人のエリア外人口解消等を目指す「条件不利地域のエリア整備(基地局整備)」、携帯電話事業者の5G基地局整備の後押しや光ファイバ整備、ローカル5Gの促進を含む「高度化サービス(5G)の普及展開」、新幹線、在来線、高速道路などの「鉄道/道路トンネルの電波遮へい対策」、居住世帯向けの「光ファイバ整備」を一体的かつ効率的に実施することを目指している。

(出典:総務省)

 こうした施策を推進することによってSociety5.0を支えていく。2016年に私達の社会が目指すべき未来の姿としてこの言葉ができて以降、ずいぶんと皆様の中に浸透したのではないかと感じているが、その実現に向けて5Gの整備を国としてもしっかりとサポートしていきたいと考えている。

(文責:「日本データ通信」編集部)