『kintone』を使えばタイムスタンプの利用は思いのままです

サイボウズ スタートアップス株式会社
代表取締役社長
山本 裕次 氏

グループウェア『サイボウズOffice』で有名なサイボウズ㈱が提供するクラウド型業務アプリ構築サービスが、『kintone』(きんとーん)である。この『kintone』と、そこに付加機能を付与する『kintone連携サービス』とを活用すると、社員の報告管理や案件の管理システムなどの業務システムが容易に構築できてしまう。
その使い勝手の良さから利用する企業は広がっているが、このにはタイムスタンプの機能も付与されており、タイムスタンプ普及にとってその存在は無視できない。『kintone連携サービス』を提供するサイボウズスタートアップス㈱の山本裕次社長にお話を伺った。

サイボウズ㈱と出会い証券会社からITの世界へ

   山本社長は大学を卒業後、10年ほど証券会社にお勤めだったのですね。かなり違う分野にお移りになったわけですが、まずはそのあたりから教えてください。

山本
 1997年、1998年頃という時期は、インターネットのサービスプロバイダーがたくさん現れてきた時期で、当時私は証券会社に勤めていましたが、インターネットが情報革命を起こすということを肌で感じ始めていました。情報自体がどんどんと流動化していく時代がインターネットによって起こり始めている。証券会社について言えば、それまで行っていたように、情報を売るということによって利益を得ることがおそらく簡単にはできなくなるなと思いました。
 とくに私は、大学時代は理系で、コンピュータに近い学部にいたので、インターネットによって情報化の時代がいよいよ来たなと思い、「証券会社にいても仕方がない、インターネットの事業をしたい」と考えました。

   山本さんとサイボウズ㈱との出会いはどのようなものだったのですか?

山本
 いったん外資系の証券会社に移って、次の仕事を見つけようとしていたのですが、元の勤め先だった証券会社から「うちが主幹事の会社で面白いことをやっているところがあるよ」ということで、当時の高須賀亘(たかすか とおる)社長にご紹介いただきました。それがサイボウズ㈱との最初の出会いです。
 高須賀社長とは、最初の出会いから波長が合いました。新幹線の終電で大阪に行ってお会いしたのですが、夜の11時半ぐらいから朝の6時半までぶっ続けで「次の時代はどうなるか」をホワイトボードに書きながら議論し、「では、ここの分野をやりません?」などと意気投合しました。結局、証券会社から転職した外資系の会社は3か月いただけで、サイボウズ㈱に移りました。当時は労働環境について今ほど厳しくなく、同時に私は事業を立ち上げる立場だったので、四六時中仕事をしていました。終電で帰るか、泊まるのが当たり前の毎日でした。

   山本さんがサイボウズ㈱に入社したのは2000年ですか?

山本
 サイボウズ㈱には2000年4月に入社しました。サイボウズスタートアップス㈱を始める前に、2001年1月にサイボウズネットワークス㈱という会社を設立し、その会社の代表として活動を始めました。それを1年ぐらいやったんですが、そうこうしているうちに、2001年の10月にサイボウズ㈱の売上げが前年同期比で下回ったりしたんです。それまでグループウェアの『サイボウズ』は、企業内の部門管理者に導入して頂いて成長していたのですが、その頃から企業の情報管理に対するニーズが高まってきて、2002年ぐらいからは全社情報管理システムを構築し、情報を会社全体で一元的に管理するという方向になってきました。
 そうすると、『サイボウズ』のように部門にゲリラ的に入ったシステムが排除され、全社のシステムに取って代わられるようになってきます。このままだとサイボウズ自体が難しいぞということになったものですから、しっかりと全社の情報システム部門に売り切る営業体制を作らなければならないと考えた。そこで、サイボウズネットワークスという子会社でのチャレンジをやめて、私がサイボウズに役員として入り、新たに全社の情報システム部門に対して販売できるチャネルづくりを担い、同時に全社向けの製品を構築してきました。これが私のサイボウズでの経験です。

新たな顧客ニーズが導いたクラウド型業務アプリ作成サービス『kintone』

   その流れの先にサイボウズスタートアップス社が生れてきたのですか?

山本
 ある程度製品もできて、それが定着してきた。私は性格が飽きっぽい方でして(笑)、実績があるものをさらに伸ばしていくことにはわくわくしないんですね。できあがった製品を伸ばすよりもゼロから1を作る方が面白い。そこで他の人に販売の責任者をお願いし、私は新規事業を担当することにして、海外展開と『サイボウズLive』という無料アプリケーションの立ち上げを行いました。「新たなお客様を獲得するために違うコンセプトでやろう」と、小さなチームに開発部門もマーケティング部門も抱えて、無茶をしながら作り上げたのが『サイボウズLive』です。最初は有償モデルでやることを考えたのですが、その後無償提供となりました(『サイボウズLive』については、このインタビューの直前に2019年4月15日付のサービス停止が報道発表された)。

   海外向けのグループウェアということで始められたのですね?

山本
 新たな海外向けの仕事を始めたのですが、グループウェアでは日本の文化と海外の文化はまったく違っていて、日本のように上司が部下のスケジュールを詳細に管理するような機能を提案しても「そんなマイクロマネジメントはプロフェッショナルの組織では必要ないんだ」と喜ばれません。提案に行くと、誰もが同じことを言うんです。おそらくMBAなどでそういった教育が行われているのではないかと想像したりするのですが、日本の行動管理のようなものは、基本的に付加価値だとは見られない。このままではだめだ、もっと違う発想がいるということで、ゼロから海外向けのサービス作りを別会社でやらせてくれと主張し、サイボウズスタートアップスという会社を独立させて、学生アルバイトを使いながら製品を作っていったというのが始まりです。そんな経緯があります。

   途中から海外にこだわらないクラウドサービスの開発に傾いていった?

山本
 会社の設立が2010年8月だったのですが、設立から半年ほど経った2011年3月11日に東日本大震災が起こり、それがサイボウズにとっては大きなインパクトになりました。それまでの業務用アプリケーションは「パソコンに入れて使ってください」というのが主流だったわけです。ところが多くのパソコンが津波で流されてしまうという事態が起こってしまった。社内の情報は端末の中に入れておくよりもクラウドの中にあった方がいいのではないかという考え方が、その時を境に強く出てきました。震災以降、お客様からサイボウズに対する問い合わせの内容も、「クラウドで管理するにはどうすればよいのか」というものが急増したんです。
 そこで、「企業の情報システムは、これを契機にクラウド化が一気に進む、日本でもクラウド型のサービスを投入した方がよいのではないか」という意見がサイボウズ社内でも強くなり、当初からクラウドサービスを担当する目的で作ったサイボウズスタートアップス㈱でそうしたサービスを作り、日本のビジネスシーンで始まる新たな戦いに対応しようと体制をシフトさせました。


 そんな状況の中で『kintone』が生まれました。そこで、ソフトの売切りはやめて、クラウドのみでやっていこうと思いっきり舵を切ったのです。あの震災がなければ、ひょっとしたらサイボウズ㈱は、今でもオン・プレミシスとクラウドと半々でやっていたのではないかという気がします。それほど東日本大震災の影響は大きかった。しかし当初は、本当にやっていいのか、大規模な事業者には導入されず、小規模向けのサービスになってしまうのではないかという危惧が社内にはあったのです。ただそれもあっという間になくなりました。そのタイミングで方針が固まったのはサイボウズ㈱にとってはよかったと思っています。

現在の2本柱は『安否確認サービス』と『kintone』連携サービス

   サイボウズスタートアップス㈱では、これまでにさまざまな製品を手がけていらっしゃいますね。

山本
 14の製品をリリースしました。親会社のサイボウズとも「たくさん作ろう」という話をして、その約束を果たそうとがんばりました。とくにスマートフォン向けを意識して簡単に営業報告をできたりするサービスなど、いろいろと作ってきました。すべての製品に魂がこもっていたかと問われると、そこまでは突き詰めて考えていませんでした。むしろ、お客さんの反応を見て、お客さんとともに育てばいいぐらいの感じで進めてきました。

   大きい会社だと社内の意思決定が複雑で、なかなか製品化までたどり着かないことがあります。

山本
 アイデアはいくらでもありますし、今でも作りたいものはいくらでもあります。小さいものだと2か月ぐらいで作ってしまうんです。製品は1日に4回ぐらいバージョンアップすることもあります。昔と違って、技術はオープンスペースとかいろいろとあるので、プロトタイプを作るだけであれば無茶苦茶簡単ですね。あとはどう組み合わせるかだけです。ただ、長く利用してもらおうと思うと話は違ってきます。フレームワークから作り直したりして、いいものにしていくといった配慮が必要となってきます。ですから、お客様から見た目は一緒でも、実は中身はきれいになっているという製品がたくさんあります(笑)。

   『kintone』関連サービスがサイボウズスタートアップス㈱が関わった最初の製品だったのですか?

山本
 震災のつながりで、安否確認の需要がありました。そこでそうしたサービスを作ろうとしたのが最初でした。その後いろいろな製品を作ってきたのですが、2014年春に、本当にやるべきことに集中しようと製品ポートフォリオの整理を行いました。今まで出していたものの売上げ見通しを立て、『安否確認サービス』を除いてほとんどのサービスをやめました。その時にはサイボウズで『kintone』が伸び始めており、そこに新しい機能などが加われば便利になるというのが見えていたので、現在は『安否確認サービス』と『kintone』の『連携サービス』を2本柱でやっているというのが現状です。

様々な業務管理システムを簡単に作れる『kintone』

   今日はタイムスタンプがテーマですので、それと関係する『kintone』のお話を聞きたいのですが、『kintone』はどのようなサービスなのですか?

山本
 会社の中では様々な業務があるかと思うのですが、それらを何らかの形で管理していかなければなりません。以前は紙に書いて管理していたし、少し前の時代でしたらEXELの利用が主流でした。ところが『kintone』を使えばどんな情報でも貯めいけるし、容易に管理していける。少し専門的な言葉を使うと『kintone』は「カード型データベース」です。例えば、名刺を貯めて管理していくような仕組みをイメージして頂ければ結構です。名刺と言いましたけれど、貯めるものはそれぞれのユーザーが決めて頂ければ結構で、テキストでもいいし、画像でもいいし、添付ファイルでもいい。それらを管理する仕組みを簡単に自分で作れるデータベースソフトが『kintone』です。ただ専門用語を用いて「データベース」などというととっつきが悪くなるので、そうは言わずに、「自分たちに合った業務アプリを簡単・即座に作成できるクラウドサービスです」という言い方でマーケティングをしています。

   『kintone』が機能面で優れているのはどんなところでしょうか?

山本
 『kintone』が過去のサイボウズ製品と違っているのは、API(Application Programming Interface:異なるソフトウェアコンポーネントを連携するための標準仕様)を通じて情報の出し入れが出来るように設計をしているところです。そうすることによって、様々な開発会社が『kintone』につながる新しいサービスを提供してくれるようにもなります。例えば、タイムカードをガチャンと押すと、それが『kintone』とつながって記録される、などといったこともできるようになる。お客様にとっては色々なサービスが一体として実現できるようになります。
『kintone連携サービス』の数々はこちらから(『kintone』HPへ移動))

   『kintone』とその『連携サービス』群は、必ずしも最初から統合することを前提に作られているものではないのですね?

山本
 もともとは個別のサービスとして存在していたんです。今はそれをつないでいこうとしています。例えば、お客様がアンケートを登録するとします。それが『kintone』で蓄積されて、PDFに印刷して配るなどということができてきます。インターネットでいろんなシステムに触れる機会が増えていますので、「うちの会社でもこうした機能が実現したい」と思うことも増えてきます。そのときに、何千万円かけなくても、『kintone』と『連携サービス』とを組み合わせれば、60点のサービスはできてしまう。従来はアイデアがあってもできなかったものが、満点とはいかなくても、少なくとも「らしいもの」が作れるようになる。だったら、まずは簡易なもので作ってみればいい。そこで、いろんなパーツが必要だなと思い、当社の取り組みとしては少し早いかもしれないけれど『連携サービス』を始めました。

   開発会社に最初から依頼をするとすぐに1千万円、2千万円といった金額が必要になるサービスが、『kintone』連携サービスを利用すればお金をかけずにできてしまうのですね

山本
 1万円、2万円程度でできてしまうということです。使っていただければ価値も見えてくるし、いろいろとお客様の要望に合わないところも出てくるはずですが、それらを見極めるためにも提供を行っています。

『kintone』を導入すると、タイムスタンプが即座に使える

   そうした『連携サービス』の一つが『サイボウズスタートアップス タイムスタンプ』です。

図表2:『kintone』とタイムスタンプの連携
出所:サイボウズスタートアップス㈱

   タイムスタンプを付与する対象データはなんでもいいのですか?

山本
 基本的にはデータの種類は問いません。紙でも、EXCELファイルでも、PDFでも処理できます。ただ、ビジネス上の大きなターゲットになるのは、電子帳簿保存法に関係する支払い情報、請求書とか、見積書などの書類の保存に関する部分ではないかという仮説は持っています。

   他にはどのような用途が考えられますか?

山本
 昨今のデータ偽装・改ざんなどの色々な問題を見ていると、大きな意思決定をする会議は証明書付きの議事録を残すべきだと思うんです。企業は、得てして社内の様子を見て動くようなところがあると思うのですが、それが個人的にはすごく嫌なんですよ。ですから、議事録は改ざんできない記録として残すことは必要だと思います。そういう風になってほしいという気持ちがありますので、タイムスタンプの活用がそうした部分でも広がればいいなと考えています。

   偽装の抑止にもタイムスタンプが役に立つと。

山本
 会社が何のためにあるのかを考えた時、やはりお客さんにとってどうなのかという軸で物事を考えることが大事だと思うんです。ところが、証券会社に勤めていた時以来、そうなっていない会社があるのをたくさん見てきました。経営力というのは、最後にはお客様の視点で考えられるかどうかに行くんですね。ですので、タイムスタンプの利用などによって「ここは信頼できる会社だ」ということを伝えられるようになるのはとてもいいことだと思います。

   『kintone』のユーザーでタイムスタンプを利用している企業はまだ少ないのですか?

山本
 まだ少ないですね。お試しをしている企業はあります。なるほどイメージは分かったという企業もあります。でも、自分たちがどのタイミングで何からやっていくべきかを判断できずに躊躇しているお客様が多いように感じます。今後、採用するお客様がたくさん出てきてほしいですね。

   少しテクニカルな質問ですが、タイムスタンプとしてはセイコーソリューションズの『eviDaemon』(エビデモン)を使っているのですね?

山本
 はい、そうです。

   日本データ通信協会の取り組みとして、「トラストサービス」というコンセプトを推進していこうとする流れがあり、その中心的なサービスがタイムスタンプと電子署名です。『kintone』ではタイムスタンプはすでに導入されていますが、『kintone』連携サービス等で電子署名をお使いになっている例はありませんか?

山本
 まだありません。『eviDaemon』には長期署名のフォーマットを作る機能がありますが、私たちが署名を行うということはありません。電子署名はそのキーをどこに保存するかがクラウドサービスでは難しい。実印と同等の効力や信頼度を持たせる必要があると考えた場合、現状では私たちのサーバにそれを置くことはできません。

   現在, ちょうどその議論が進んでいる最中ですので, もう少しすると標準が見えてくるのではないでしょうか. ところで『kintone』上で動くアプリケーションを提供している事業者さんがたくさんあると思いますが, そちらとの連携はいかがでしょうか?

山本
 『kintone』の標準機能としてそうした会社さんの一つが作り込まれたものにプロセス管理という機能がありまして、それを用いると任意のプロセスを経ると自動的にタイムスタンプが押されたり、電子帳簿保存法でいうレコードを消させなくしたりすることができます。ですから、現在の『kintone』の業務フローの中には、すでにタイムスタンプが付いていると考えて結構です。

お客様がタイムスタンプを理解し要求をする世の中を

   今後の展開としては、どのようなことが視野に入っていますか?

山本
 『連携サービス』はサイボウズのプラットフォームにこだわらない作り方をしているので、例えば『Google Apps』でも、やろうと思えばタイムスタンプ機能の付与をできると思うんです。ただ、サイボウズと異なり、どこでタイムスタンプを押せばいいのかといった業務フローの流れが我々に見えていないので、まだ実際には他のプラットフォームでの取り組みは進んでいません。しかし、将来的にはどのプラットフォームでもできるようにしていきたいと考えています。

   タイムスタンプそのものへの質問がくることもありますか?

山本
 あります。「タイムスタンプって、PDFとどう違うの?」といった初歩的な質問もあります。ユーザー企業の取組みは、今はまだまだ限られているということだと思いますね。
私たちはお客さんが創造したい仕組みをサービスにして提供したいと考えていますので、タイムスタンプに対し、お客様がどのような要求をしていくかが重要になります。その姿がどうなるかは私たちにもまだわかっていません。介護だとか、訪問医療などの現場では処方箋の問題などの絡みでタイムスタンプの話が出たりします。そういった分野に対し私たちが簡便なシステムを提供できるようになればいいなとは思いますし、今後話を聞きながら進んでいければと考えています。

   そもそも書類の電子化自体が進まないという現状があります。

山本
 やはり、変えたくないと考えている人がまだまだ多いということですよね。私どもではお客様に対して請求書を毎月千通以上送るのですが、お客様から「電子データで送ってくれませんか」と依頼してくるのは、わずか2、3社です。つまり0.3%ですね。来年からは半ば強引にでも請求書の電子化に取り組もうとは思っていますが、紙に対する需要が大きいのは感じています。ただ、ITベンチャー系では電子化している会社は多い。過去を引きずっていない会社さんで電子化への取り組みが進んでいるのは期待がもたれます。

――貴社には日本データ通信協会の「認定タイムスタンプ利用登録事業者」の最初の事業者の1社として平成29年7月に登録をしていただきました。((伊地知 理『タイムスタンプからトラストサービスへ』へ)

山本
 お客様は信頼を求めているので、それを上げるために登録するべきだろうと判断をしました。お客さん自体が事業者に対してこの制度への登録を求めるようになってくれればいいなと思います。制度自体の知名度や信頼性を上げていただければ、私たち事業者の説明コストも下がりますので、我々にとってのメリットにもなります。
 私たちもこれからタイムスタンプが世の中にもっと普及してほしいなと思っているので、ぜひ日本データ通信にもその流れを作っていただきたいと考えています。そうしないと日本の競争力が上がってこないので、ぜひ頑張っていただきたいと思っています。