令和元年「情報通信エンジニア」優良団体表彰模様(学校編)

 電気通信事業法第71条が定める「工事担任者」は、電気通信設備の接続を行う際に必要とされる国家資格です。この工事担任者の知識や技術の向上を目的に作られたのが「情報通信エンジニア」制度で、同制度を運用する工事担任者スキルアップガイドライン委員会(事務局:日本データ通信協会)では、制度の普及促進を図る目的で、情報通信エンジニアの育成と資格取得を支援している団体を「情報通信エンジニア優良団体」として毎年表彰しています。今年も企業5団体、学校4団体が表彰の栄誉に浴しました。本稿では、編集部が表彰状授与式に同席した高等学校4校の皆様の声を紹介します。

■第1位:尼崎市立尼崎双星高等学校(資格者数:28名)

 今年も 尼崎市立尼崎双星高等学校 は「情報通信エンジニア」優良団体表彰で全国1位を獲得しました。

 尼崎双星高等学校は、国家資格の工事担任者試験で例年数多くの合格者を出していますが、工事担任者資格取得後の継続的な知識習得のために設けられている「情報通信エンジニア」においても、工事担任者と同様、真摯な取り組みを続けています。本年5月には、これらの功績が認められ、総務省の「令和元年度『電波の日・情報通信月間』表彰」で近畿情報通信協議会会長表彰を受賞しました。

 そんな同校の「情報通信エンジニア」表彰受賞は今年で5年連続、また第1位での受賞も見事に3年連続となりました。

 輝かしい成果を支えるのは何か。学校に伺い、授業の様子を拝見すると、同校電気情報科の指導方針と成功の秘訣が垣間見えます。そこで訪問者が目にするのは、1年生の授業を3年生が先頭に立ってサポートしている姿なのです。

「今、生徒に言っているのは、「自分だけよかったらいいのか?」ということです。1学年40人いる生徒が、みんなで助け合って、みんなで合格しなければいけないと話しています。教師がガツガツとやらせなくても、生徒同士が助け合って成長していく。それが大事かなと」と語るのは、長年、電気情報科を指導する藤井克二先生。

「教師が必死になってやらせれば、もっと上の資格にも挑戦できるかもしれませんが、長続きできない教え方では意味がない。教師がやりすぎると、そのときだけがんばるようになってしまいがちですので、手を入れすぎない方がむしろいい結果を生むだろうと思っています。まずは、目標に向かって自主的に取り組む環境を作ることを優先に考えています。」

2年生:工事担任者DD第3種試験補習
1年生:第2種電気工事士技能試験補習

 電気情報科の科長である金中理先生も言います。 「自主的に勉強する方が身につくものが多いし、先生にやらされたのではなく、自分の力で試験に通ったということに意味があります。社会に出てから新しいことに挑戦していく力、生きる力を身につけるには、そこが大事なのではないかと考えています。」

 本人の自主性を促し、皆で成果を勝ち取る。尼崎双星高等学校電気情報科の選ぶスタイルには、学びのあり方を考える際の重要な何かが示されているようにも思えます。

左より藤井 克二教諭、谷 清隆校長、金中 理教諭、横田 瑛三郎講師。

■第2位:福岡県立福岡工業高等学校(資格者数:19名)

 明治29年に創立し、120年を超える歴史を誇る福岡県立福岡工業高等学校は、福岡県を代表する工業高校であり、「質実剛健 自律 創造」の校訓の下、様々な分野に人材を輩出しています。

 「福工」生徒の資格試験への取組みは多岐にわたっており、様々な分野において国家資格、公的資格に数多くの生徒がチャレンジし、取得しています。これは「生徒1人が5つ以上の資格を取って卒業をすることを推奨しています」(太田博文校長)という学校方針を如実に反映したもので、工事担任者でも「DD3種」に57名、「AI3種」に25名と数多くの合格者を出すなど顕著な成果を上げています(数字は何れも昨年度。同校ホームページより)。
同校電子工学科では、学科主任の重松哲朗先生、村岡亮平先生の指導の下、昨年度から「情報通信エンジニア」への取組みも始め、2年連続の受賞となりました。

 村岡先生からは、工事担任者試験及び情報通信エンジニアへの取組みについて次のようなお言葉をいただきました。「2年連続の優良団体表彰受賞を大変光栄に思います。『情報通信エンジニア』への取組みを始めてから、通信系の企業へ就職する生徒も増えています。生徒が、通信技術に興味を持ち、そして将来の職業として通信技術者を志していけるよう、『情報通信エンジニア』への取組みはもちろん、その他、いろいろな働きかけをしていきたいと考えています。」

左より村岡亮平教諭、太田博文校長、井上毅副校長、重松哲朗教諭。

■第3位:京都府立京都すばる高等学校(資格者数:14名)

 京都府立京都すばる高等学校は、地域とつながる「起業創造科」、世界とつながる「企画科」、ITとつながる「情報科学科」の3つの学科を持ち、「商業」と「情報」の分野で特色ある学校運営を行っています。2019年度には、文部科学省の事業である「地域の課題を基に体験と実践を伴った探究的な学びを実現するための『地域との協働による高等学校教育改革推進事業』」の指定校(全51校)のうち、職業教育を主とする「プロフェッショナル型」指定校として全国11校の1校に選ばれています。

 情報に関する専門学科である「情報科学科」は、21世紀における重要な資源である情報を科名に掲げ、プログラミング、情報法制、アプリ開発など専門学科ならではのカリキュラムを揃えて実践的な教育を行っています。

 その情報科学科では、資格取得にも力を入れ続けており、情報処理の分野では情報処理技術者試験、ネットワークの分野では工事担任者試験、陸上特殊無線技士などに多くの合格者を出し続けてきました。

 「情報通信エンジニア」への取組みも早くから行っており、表彰制度ができた初年度から今年で11年連続の受賞となります。工事担任者試験や情報通信エンジニアの世界では、全国の高等学校から一目を置かれる存在です。今年も14名の生徒の皆さんが情報通信エンジニア資格を取得しています。

応接室の目立つ場所に「情報通信エンジニア」の表彰額を飾っていただいていました。

 「情報通信エンジニア」の取組みを先導してきた尾上妥理先生は、「情報科学科が情報に特化した学科であるということから、工事担任者試験や情報通信エンジニアについては、学科のカリキュラムや知識の取得に対して相互的に関連するところがあり、相乗効果があると考えられるところから取り組んできました」と話します。

「ネットワーク技術の重要性は、今後さらに高まっていくと考えられます。本校では、情報セキュリティ人材の育成も一つの目標としており、ネットワーク技術も大きな要素となります。そのような観点からも「情報通信エンジニア」の必要性がますます広がっていくことと思います。」(尾上教諭)

 工事担任者試験と「情報通信エンジニア」を京都すばる高等学校情報科学科の学びに役立てていただけるよう、今後も期待したいと思います。

左より小西良尚教諭、尾上妥理教諭、三橋利彦校長、福江 努教諭、谷口真里教諭

第3位:福井県立科学技術高等学校(資格者数:14名)

 福井県立科学技術高等学校は、実務に携わっている社会人が取得を目指す工事担任者DD第1種に二桁の合格者を出すなど、近年、工事担任者試験の分野で特筆すべき成果を上げている高校です。そんな同校が今年から「情報通信エンジニア」にもチャレンジを始め、初年度で14名の認定者を輩出しました。

 科学技術高校の勇躍は、情報工学科長の千葉晴信先生の指導なしには語れません。千葉先生は生徒たちの実力を測り、また高める手段として工事担任者試験を高く評価しています。

「情報系の生徒たちが取り組む国家試験として代表的なものを挙げると、まず、経済産業省がやっている情報処理技術者試験があります。この試験は本校の情報工学科も取り組んでいますが、商業高校の情報系の生徒たちも受験します。そこで工業高校の情報系の生徒だからこそ取り組むのにふさわしい国家試験や国家資格は何かを考えると、工事担任者試験がまさに最適です。工事担任者試験のDD1種の内容は本校の情報工学科のカリキュラムにとても合っており、生徒たちが挑戦するのにぴったりの資格だと考えています。」(千葉教諭)

 とは言え、DD1種が高校生にとって難関であることは間違いありません。

「DD1種の「基礎」は、普段のカリキュラムである程度カバーしている内容ですが、「技術」の内容は授業で扱う内容を大きく超えているので、朝と放課後に補習を行っています。試験は2年生の11月に受けていますが、夏休みから宿題などで準備をし、補習は9月から始めます。

 情報工学科の生徒は1年生でITパスポートと特殊無線技士、2年生で電気工事士に取組んでおり、その流れで工事担任者試験に挑戦します。2年生のこの時期には資格試験に対する取り組み方が身に着いているので、9月にはスムーズに勉強に入ることができます。情報工学科の先生方全員が協力してくださり、先生も生徒も一丸となって工事担任者試験に取り組んでいます。」(千葉教諭)

廊下に多数掲示された試験合格の新聞記事を千葉先生が紹介してくれました。

 校長先生も千葉先生の取組みに絶大な信頼を寄せています。

「知識や理解力をつけさせることはもちろん必要なのですが、高校生ですから心の弱さもあります。千葉先生の指導は、その中で実績を上げています。千葉先生を見ていると、生徒の精神力を作ることをまずやっている。子供たち自身に「よし、やるぞ!」と本気でやる気持ちを持たせる部分をしっかりとやっていると傍から見て感じています。高校生の指導において、とても大事な部分ではないかと考えます。」(折井 巧校長)

 工事担任者試験で存在感を増す福井県立科学技術高等学校には、「情報通信エンジニア」資格でも今後の大きな成果が期待されます。

左より藤枝 徹教頭、千葉晴信教諭、折井 巧校長。

(文責:「日本データ通信」編集部)