令和元年「情報通信エンジニア」優良団体表彰模様(企業編)

 電気通信事業法第71条が定める「工事担任者」は、電気通信設備の接続を行う際に必要とされる国家資格ですが、この工事担任者の知識や技術の向上を目的に作られたのが「情報通信エンジニア」制度です。この制度を運用する工事担任者スキルアップガイドライン委員会(事務局:日本データ通信協会)では、制度の普及促進を図る目的で、情報通信エンジニアの育成と資格取得を支援している団体を「情報通信エンジニア優良団体」として毎年表彰しています。今年も企業5団体、学校4団体がその栄誉に浴しました。
 本稿では受賞企業5社のうち、編集部が授賞式に同席した4社の皆様の声を紹介します。

■第1位:扶桑電通株式会社(資格者数:55名)

 昭和23年創業の扶桑電通㈱は、従業員数950名、売上高約350億円を誇るソリューションプロバイダーです(2018年9月期決算による)。事業は大きくネットワーク、ソリューション、ファシリティの3つの部門から成り、「ICTコンビニサービス」というキャッチフレーズを掲げて、 ICT分野の幅広いニーズに対し 、包括的に対応が可能な体制を構築しています。

 社員教育の充実は同社の将来にとって重要な課題と認識されており、2019年9月に明らかにした「中期経営計画 FuSodentsu Vision 2021」の中でも「企業成長のための人材育成」が経営基盤強化施策の一つとしてしっかりと組み込まれています。

 そんな同社では、「情報通信エンジニア」制度に組織をあげて取り組んでおり、団体別の資格保持者数では全国でトップの地位を維持し続けています。

「弊社には情報通信エンジニア制度が創設された当時から工事担任者が多くおり、会社全体が情報通信エンジニア制度に取り組んで参りました。その結果、長く上位の位置を維持できているものと思っています。最近では新入社員への工事担任者資格の取得を必須と位置づけて活動しており、また資格取得者には引き続き「情報通信エンジニア」を受講するよう推進しています。これら活動は、今後も引き続き続けて参りたいと思っています。毎年テキスト編集に携わっている日本データ通信協会様、工事担任者スキルアップガイドライン委員会・同WG様の益々のご活躍をご祈念申し上げます」と述べるのはサポートサービス本部本部長付で、「工事担任者スキルアップガイドライン委員会」WG委員としても活躍された石川守雄氏。

 サポートサービス本部エンジニアリング統括部長の上地浩夫氏も次のように言います。

「通信作業に従事する社員には必要な資格がいくつかあり、その中の一つに工事担任者資格があります。そしてその延長上に情報通信エンジニアがある訳ですが、会社としては社員が必要な資格を積極的に取れる環境作りを行うことが大事であると思っております。」

 扶桑電通㈱の人材育成に対する意識の高さは盤石と見えます。

左より、扶桑電通㈱サポートサービス本部本部長付の石川守雄氏、サポートサービス本部エンジニアリング統括部長の上地浩夫氏、管理本部総務統括部人材育成室長の佐藤伸行氏

■第2位:株式会社TOSYS(資格者数:39名)

 ㈱TOSYS(トーシス)は、通信建設業界のリーディングカンパニーであるコムシスホールディングスにあって、その中核会社の一つとして、甲信越地方をフィールドに電気通信インフラ構築に携わっています。

 ご承知の通り、甲信越は10月の台風19号で大きな被害を受けました。長野市を本拠に事業を展開する㈱TOSYSの業務にもその影響は大きく、水害でダメージを受けた数多くの設備の復旧を手掛け、今まだその努力が急ピッチで続いています。

「業務ももちろんですが、長野県や長野市からは企業にもボランティアを出して欲しいと要請されており、11月もかなりの社員を出しました。ゴミ処理の引受先が限られていることが大問題になっていまして、それらを片付けてからでないと通信機器の故障修理等も進みません。床上浸水で被害を受けた家屋は、床や壁をしっかりと直してからではないと通信の手当てができない場合が多いので、まだしばらく対応が必要な状況です。」と同社の笠井澄人社長は語ります。地域に根差した事業を行う同社にとっては、甲信越地方全体が元気でいることが事業発展の礎です。

左より㈱TOSYS常務取締役の登坂直美氏、代表取締役社長の笠井澄人氏。

 地域に根差した課題もあれば、時代に即した課題もあります。技術が発展し、それに伴って社員に必要となる知識やノウハウが変化していくのはその最たるものでしょう。そんな中、㈱TOSYSは社員教育に力を入れ続けており、2015年6月には人材育成の取組を評価され、「平成27年度電波の日・情報通信月間」において「信越総合通信局長表彰」を受賞しています。「情報通信エンジニア」にも工事担任者教育の一環として取組み、全国の企業で2位にあたる39名が認定資格を保持しています。

 笠井社長は言います。

「5Gが導入されれば、ラスト・ワン・マイルの在り方もかなり変化する可能性があると言われています。例えばスマートフォンがコントローラーや端末機として様々な用途で使われるなど、ネットワークも端末も変わってきます。また、情報セキュリティがますます問われるようになっているのも顕著な動きですし、技術者はそうした中でお客様に対応していく必要があります。社内でEラーニングを行うなどして教育に努めていますが、工事担任者の取り扱う対象も変化する中、「情報通信エンジニア」も私どもの重要な教育手段として活用していきたいと考えています」

左より㈱TOSYS 品質広報部担当部長の池田浩士氏、代表取締役社長の笠井澄人氏、常務取締役の登坂直美氏。

■第3位:大和電設工業株式会社(資格者数:35名)

 大和電設工業㈱は、昭和26年5月の創業以来、電気通信工事の分野で関西の情報通信インフラを支えてきました。(一財)情報通信設備協会の副理事長でもある同社の栩谷(とちたに)晴雄社長は、電気通信技術や設備の進展を身をもって体験してきました。

「もうすぐ5Gのサービスが始まりますが、この業界に入ったときはまだクロスバー交換機の時代ですよ。あの頃の方が機械の動きも見えたし、理解はしやすく、仕事をしていても楽しかったかもしれません(笑)。
  5Gは社会インフラに変化をもたらす可能性がある技術でしょうが、機器の接続をお客様に提供する私どもの事業で、どのような展開ができるのかがまだ分かりません。社会にとって有用なのはよく分かりますが、我々のビジネスの中でどう使えるかも見ていかなければなりません」(栩谷社長)

 栩谷社長は、社員の資格取得に熱心に取り組み続けており、大和電設工業㈱は工事担任者を50人以上、「情報通信エンジニア」も35名の資格保持者を有しています。

「工事担任者がいないのに電気通信工事を請け負っている例もあると見聞きします。世界一と言われた日本の電気通信システムの品質や安全性を確保するためにも、工事担任者がしっかりと工事に関与することは必要ですし、国にはこれからも資格保持者のステータスを向上するような取組みを行っていただくよう希望しています。」

大和電設工業㈱ 代表取締役社長の栩谷(とちたに)晴雄氏

 そう語る栩谷社長は、資格制度の動向に人一倍関心を抱き続けています。

「私どもでは工事を行うにあたり、電気工事士、工事担任者など様々な資格を必要としています。さらに今年は国土交通省で新たに電気通信工事施工技術管理技士が設けられました。社員には必要な資格試験は取るように指導していますが、新たな資格が出てきたことによって、また対応の必要が出てきます。

 しかし、総務省の工事担任者にも、国土交通省の電気通信工事施工技術管理技士にも共通する内容の試験科目があります。例えば、施工管理や安全管理などがそうです。ですので、省をまたがる取組みは難しいのかもしれませんが、できれば試験同士でうまくリンクを張っていただいて、一方の資格保持者には優遇措置を作るなど、受験者にとって手間が減るような仕組みを作っていただければありがたいと考えています。」 (栩谷社長)

 よりよい資格制度を熱望する栩谷社長にも「情報通信エンジニア」は頼もしい存在に映っているようです。

「工事担任者も技術の進展に対応できるように研鑽を積んでいく必要があります。本当は、工事担任者に対し、数年毎に講習受講を義務付けるのが望ましいと個人的には思っています。一度免許を取ればずっと有効だというのは、技術自体が変革していく中でよいことなのか。そうした点を補う意味で「情報通信エンジニア」の役割は大きいと思っています。」 (栩谷社長)

左より大和電設工業㈱の坂上慶一専務取締役、栩谷晴雄社長、渡辺卓也執行役員

■第4位:株式会社ベータテック(資格者数:24名)

 名古屋市天白区に本社を置く㈱ベータテックは、無線通信分野の技術をコアに、無線電話基地局をはじめとする各種無線設備の建設・保守・運用・検査等を手掛けるICT事業と無線従事者取得講座(陸上・海上特殊無線技士養成課程)などの無線系教育事業の2つの柱を立て、我が国の電気通信のインフラを支え続けています。

 約150名の社員の多くが、業務遂行にかかわる各種国家資格を取得していますが、総合無線通信士や陸上無線技術、陸上特殊無線技士など無線通信系の資格とともに、工事担任者資格取得者も31名在籍しており、同社の業務の円滑な遂行を支えています。

 こうした㈱ベータテックでは、工事担任者の技術向上のために「情報通信エンジニア」を技術の研鑽に活用し続けており、今年も全国で4位に当たる24名の有資格者を擁しています。

 しかし、優秀な人材の確保は容易ではなく、同社代表取締役の大竹丈夫氏は、その難しさを痛感しています。

「採用募集をしてもなかなか反応がなくて、実態は毎年悪くなっています。とくにここ愛知県では、技術志向のある人は自動車業界に行くケースが多く、自治体なども積極的に採用活動を行っているので、人材の取り合いになります。一部上場の工事会社でも技術系の学生が採れない様子ですので、当社のような規模の会社ではますます大変です。」(大竹社長)

㈱ベータテック代表取締役社長の大竹丈夫氏

 大竹社長が憂えるのは、こうした状況が一企業のみならず、電気通信業界全体に悪影響を及ぼしていると考えるからです。

「このままでは日本の電気通信技術は育っていかない恐れがあるのではないかと心配しております。私どもが関わっている無線通信の世界での話になりますが、現状、多くの事業者がハードやソフトを外国に頼っています。日本の技術者にノウハウが溜まっていきません。」

 技術を持つ人材を確保するのではなく、技術を持つ人材を自社で育てる必要性を自覚する㈱ベータテックでは、地道な人材育成の方途として「情報通信エンジニア」への取組みを毎年続けています。

左より㈱ベータテックの大橋貴美雄取締役、大竹丈夫社長、大竹佳子取締役

(文責:「日本データ通信」編集部)