通信ネットワークの技術基準等に関する政策動向

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総務省
総合通信基盤局 電気通信事業部
電気通信技術システム課長 藤田 和重 氏

 本稿は2019年4月5日に開催された第50回ICTセミナー(主催:日本データ通信協会)において行われた総務省電気通信技術システム課長の藤田和重氏による講演の内容を編集部において取りまとめたものである。藤田課長には、総務省のIPネットワーク設備委員会で検討を進めている「IoTの普及に対応した電気通信設備に係る技術的条件」の検討模様と通信事故への対応について解説して頂いた。

1.はじめに

 本日は「通信ネットワークの技術基準等に関する政策動向について」というテーマでお話をさせて頂きたい。私の所属している電気通信技術システム課は、電気通信事業者が設置する通信ネットワークとネットワークに接続される端末機器の技術基準等を所管している。最近の取り組みとしてIoT時代の技術基準の在り方を継続的に検討しており、本日はその内容を中心にご紹介したい。また、電気通信技術システム課は、通信ネットワークの安全・信頼性の確保を目的として技術基準を所管するとともに、通信事故や、災害等が発生した際の通信障害への対策も所管しており、そうした取組についてもお話ししたい。

2.「IoTの普及に対応した電気通信設備に係る技術的条件」一次検討

(1)IoT機器のセキュリティ対策に関する技術基準の整備

 総務省の諮問機関である情報通信審議会の下にIPネットワーク設備委員会があり、一昨年から「IoTの普及に対応した電気通信設備に係る技術的条件」について検討を行い、昨年の9月に第一次答申をとりまとめている。それを踏まえ、必要な手続きを経て、関係省令の改正等を行っているので、まずはその状況をご紹介したい。

 昨年9月の一次検討結果の目玉の一つがIoT機器のセキュリティ対策に関する技術基準である。近年、インターネットにつながるWebカメラやルータといったIoT機器が乗っ取られ、DDoS攻撃等に悪用される事案が増加しているが、その原因の多くがパスワードを初期設定のまま使うなどの不適切な取扱にある。

 その対処として、インターネットプロトコルを使用し電気通信回線設備に直接接続することで送受信に係る機能を操作することが可能な端末について、①アクセス制御機能、②アクセス制御の際に使用するID/パスワードの適切な設定を促す等の機能、③ファームウェアの更新機能、あるいはそれらと同等以上の機能を有することを端末設備の技術基準の中に追加することが提言された。なお、今回の提言ではPCやスマートフォン等、利用者が任意のソフトウェアを導入することが可能な機器については対象外となっている。この技術基準に関しては省令改正を行い、3月1日に公布し、製造業者等の準備期間を考慮して来年4月1日の施行を予定している。

出典:総務省

 改正後の省令を運用するに当たり、運用解釈を明確化するためにガイドラインを検討している。そのために、いくつかの関係業界の方々にご参加を頂き、検討連絡会を設置し取りまとめを行っている。今回の対象になるのは回線に直接接続される機器であるため、ルータは対象になるが、ルータの下にぶら下がっている機器は対象にならない。ガイドラインは、そうした詳細を解説するようなイメージである。3月1日からパブリックコメントを開始し、できれば4月中に公表していきたいと考えている。

出典:総務省

(2)LPWAサービスに係る電気通信主任技術者の選任義務の緩和

 1次答申の2つ目のポイントはLPWAサービスに関するものである。電気通信事業者は通信設備を設置する都道府県毎に電気通信主任技術者を選任するよう定められているが、LPWAについては基地局として免許不要局を使い、通信機能をクラウドを活用して提供するパターンが多い。仮に故障等が発生しても遠隔操作等で復旧できるということもあるため、規定を緩和し、都道府県毎の選任を要しないこととされた。

出典:総務省

(3)LPWAサービスに係る重大事故の報告基準の緩和

 3番目もLPWAに関するものである。重大事故の報告基準に関し、現行制度上、通信事故が発生した際に、その事故の影響利用者数と継続時間というパラメータで一定の規模以上のものを法令上「重大事故」と定義している。重大事故を発生させた場合には、30日以内に総務省に報告書を提出するルールになっているが、LPWAについては、その大半がセンサー情報の伝送に使われ、半日に1度、1日に1度といった低頻度での通信しか行わない状況が多いため、一般的な音声やデータ役務と同じ基準にすると厳しすぎるのではないかということで、ルールを緩和することとされた。

出典:総務省

(4)大規模インターネット障害対策

 最後のポイントが大規模インターネット障害対策である。一昨年の8月にグーグルが通信経路情報を誤送信してしまい、それが原因で国内の事業者のインターネットサービスに障害が発生した。その反省を踏まえ、総務省告示として示している推奨ガイドライン「情報通信ネットワーク安全・信頼性基準」の中に経路設定を行う際の人為的ミスの防止や不正・不要な経路情報の送受信防止などの対策を追加した。

 また、この事案が発生した際に、事業者では異常の発生はすぐに分かったが、はっきりした原因が何かが分からず、事業者間の情報の共有に手間取った。こうしたことから、総務省が間に入って迅速な情報共有を行うよう関係する電気通信事業者団体で関係ガイドラインへの反映が行われた。

出典:総務省

3.「IoTの普及に対応した電気通信設備に係る技術的条件」第二次検討

 IPネットワーク設備委員会では、昨年10月から継続審議とされた「IoTの普及やネットワーク仮想化等に対応した技術基準及び資格制度等の在り方」と「新たな技術を活用した通信インフラの維持・管理方策」の2点について検討を開始したので、その概要についてお伝えしたい。

 古くアナログ時代には、設備は交換機に依存し、サービスは音声が中心であり、端末設備はシンプルなものだった。そこに、インターネットの技術が入ってきて、今日では設備もルータ、サーバといったインターネットの設備に依存するようになり、ハードの汎用化、設備構成のフラット化がなされている。サービスは音声からデータや映像等に多様化し、端末設備もPCやスマホなど様々なものが活用されるようになっている。

 これからの「ネットワーク仮想化時代」を考えると、設備の中でのソフトウェア制御の比率、重要性が増大し、仮想化が進展してニーズに応じた機能がソフトウェアでフレキシブルに実現されるようになる。

 こうした流れを前提に、仮想化時代における技術基準や資格制度、インフラの維持の考え方が今までのもので十分なのかどうかを検証しながら、今後必要な方策を考えていく。これが第二次検討である。

出典:総務省

 検討のポイントについて、第二次報告書を3月中旬に取りまとめ、現在パブリックコメントを実施している。

 この中で、技術基準等の在り方については、当面の課題と将来的な課題に分類している。 当面の課題については、①ハードウェアの仮想化に伴う機能維持・冗長性確保のあり方、②ソフトウェアの信頼性確保の在り方、③ネットワーク構成の把握の在り方、④ネットワークの維持・管理・運用に求められる専門知識・能力の変化への対応の4点を挙げている。

将来的な課題としては、ネットワークが5Gの構造に置き換わっていくであるとか、ネットワークスライシングという形で従来にないフレキシブルな制御方法が導入されていくことを見据えた課題を考えていくということである。

2番目が「新たな技術を活用した通信インフラの維持・管理方策」で、これに関しては新たな技術を活用しつつ、どのようにメンテナンスを行っていくか、また災害時・非常時の応急復旧の在り方について整理されている。 以下、一つずつ紹介していきたい。

出典:総務省

(1)ハードウェアの仮想化に伴う機能維持・冗長性確保の在り方、ソフトウェアの信頼性確保の在り方

 従前はハードウェアの予備機器を複数設置し、故障時にそれらを切り替える対応を行ってきた。しかし、ソフトウェア制御の時代になってくると、複数の予備機器があっても、ソフトウェアが同一仕様のものであったりすると動作しないことが懸念されてきた。まさにその心配が的中したというべきか、昨年の12月に携帯電話の重大事故事案が発生し、平日の時間帯に交換機がすべて停止してしまい、4時間半近く携帯電話が通じなくなってしまった。交換機のソフトウェアの中に埋め込まれているデジタル証明書の有効期限が切れたのが事故の直接の原因だった。IPネットワーク設備委員会では、この再発防止について緊急の課題として議論頂き、安全・信頼性基準の改正を行うこととされた。

 具体的なポイントとしては、例えば携帯電話の交換機のような重要な設備で使われるソフトウェアについては、発注する段階、納品の段階、通常運用していく段階のそれぞれの段階で対応を強化していくこと、さらに今回の通信障害の事案では、一旦ソフトウェアを一つ前のバージョンに戻すことで復旧できたことから、ソフトウェアのバックアップの強化といったことを内容とした基準の改定を提言している。現在パブリックコメント中だが、答申が得られた後に速やかに改正作業に入っていきたい。

(2)ネットワーク構成の把握の在り方

 現行法令上、電気通信事業者には技術基準が課せられているが、具体的な手続きとしては、それぞれの事業者が基準に適合しているかを自己確認して頂き、それを総務省に届け出て頂くという仕組になっている。これまではハードウェアの構成を届出書類に記載して頂くことが中心だったが、今後は部分的にソフトウェア制御が導入されるようになるため、それらの部分をより正確に記載して頂く必要が出てくる。そのための、届出書類に関連する規定の改正や記載事例をまとめたマニュアルなどを整備する必要があるとの提言を頂いている。

出典:総務省

(3)ネットワークの維持・管理・運用に求められる専門知識・能力の変化への対応

 次が資格制度の関係である。これまでの資格はハードウェアの知識が中心だったが、ネットワークにおけるソフトウェアの比重が高まるにつれ、ハードウェアの知識をベースとしつつも、ソフトウェアやセキュリティの知識や能力が求められる傾向が生じている。そうなると、発注管理などを含め、業務マネジメントの知識も必要になってくる。

 電気通信主任技術者や工事担任者の制度は、いろいろ工夫を重ねてここまできたと思うが、委員会では一人の有資格者に様々な専門知識を学んで頂くには限界が来ているのではないかという議論があり、方向性としては、ある程度専門科目化して、知識を分担していく体制を前提とした方向に切り替えるべきではないかとしている。

 それに合うように、専門科目の充実や、工事担任者という端末設備側の資格についても検討が必要である。現在の工事担任者の資格は7種類が存在し、総務省令の上で「AI」や「DD」が正式名称になっているが、これらが分かりにくく見直すべきであるといった意見も頂いている。またAI、DDの何れにおいても二種の受験者が減少していることもあり、制度の内容をよりご理解頂きやすいようにし、受験をしやすくする方向を検討していく。また、電気通信主任技術者、工事担任者のいずれの資格についても、「スキル標準」等の設定によって、それぞれの試験がどういった知識・能力を求めているのかを分かり示していくべきであるという提言を頂いている。今後の大事な課題になっていくと認識している。
以上が当面の課題である。

出典:総務省

(4)5Gコアネットワークやネットワークスライシングへの対応

 今後の課題については、まだ抽象的なところがあるが、「5Gコアネットワークやネットワークスライシングへの対応」がある。現在、仮想化技術が部分的に導入されつつあるが、まだハードとソフトは1対1で運用されている実態がある。しかし、仮想化が進んでいくと、ハードとソフトはm対nで自由に組み合わせて使われたり、その一部がクラウド側にあったりと、構成が複雑化していく。そういったものを自在に組み合わせる、いわゆるネットワークスライシングが実現される時代のサービスが、現行の技術基準で対応できるのかを今後さらに検討していく。

出典:総務省

(5)通信インフラの効果的・効率的な保守・運用

 「通信インフラの効率的・効果的な保守・運用」については、将来的にメンテナンスを行う人材が高齢化し、不足していく時に、新しい技術で補っていくことが必要なのではないかとしている。高品質なインフラを維持・管理していくために、委員会の中では、例えばドローンや3次元画像の解析、あるいはAIといった技術を駆使したいくつかの先進事例を明らかにしており、それらをベストプラクティスとして推奨していくことが適当としている。

(6)非常時の応急復旧を含む通信インフラの適切な維持・管理

 「非常時の応急復旧を含む通信インフラの適切な維持・管理」については、総務省の中で連絡体制を作り、昨年度の第2次補正予算でいくつかの対策の経費を計上しており、それらを着実に実行していくことが適当だとしている。

 この第二次検討は、先程申し上げたように、当面の課題については現在パブリックコメント中で、早ければ5月の中旬頃に第2次答申として取りまとめていただけると考えている。それと併行して長期的な課題について引き続き検討していくことになる。 ここまでが技術基準の関係である。

4.通信ネットワークの安全・信頼性の確保に関する取組

 引き続いて、安全・信頼性の確保について少しお話をしたい。
 現行の制度の中では、安全・信頼性対策としていくつかの基準がある。災害時の通信障害の原因は典型的なものとして、停電か、土砂崩れ等で伝送路が切断されるパターンがある。停電対策としての予備電源の設置と、伝送路が切断された場合に備えて迂回ルートで冗長性を確保する、その2点が大きなポイントとなる。東日本大震災以降、こうした対策を強化して今日に至っている。

出典:総務省

 停電への対応は、移動電源車や予備バッテリーの増加がそれに当たり、事業者の取組として、役場エリアをカバーしている携帯電話基地局については24時間の予備バッテリーを準備して頂いている。また、バッテリーが切れた時のために、移動電源車を用意するとともに、大きな設備には発電機を置いているので、そこに燃料を届ける仕組の整備などそれぞれに取り組んで頂いている。

 伝送路断対策としては、複数経路化や有線が切れた場合に備えて衛星エントランス回線やマイクロエントランス回線を用意している。エリアカバー対策としては、基地局自体が倒れてしまうことがあるため、可搬型基地局や、自動車にアンテナと基地局、エントランス回線と電源を積んだ車載型基地局の整備を強化している。また大出力で広範囲をカバーする大ゾーン基地局の利用、一つの基地局が倒れても近隣の基地局のアンテナの角度を遠隔で調整することでエリアカバーをする技術など様々な方策があり、災害が起きた時にも機能を維持する対策を事業者各社が継続的に実施している。

 最近の事例では平成30年7月豪雨、平成30年北海道胆振東部地震の例などがある。水害の際は土砂崩れで伝送路断が起こる場合が多くなっており、地震では停電がかなりの割合を占めているという原因の違いがあるが、いずれの場合にも災害の発生に伴い固定電話、携帯電話が影響を受けている。平成30年7月豪雨の際には伝送路が切れて、道路が寸断されてしまい復旧に入れないケースがあり、完全復旧するまでに数週間を要している。

 また、台風21号の際には固定電話の各家庭への引込み線が切れた例が多数あり、これは一件ずつ対応する必要があるため、時間を要した。

 一方で平成30年北海道胆振東部地震の場合には、皆さんご承知の通り、北海道全体でブラックアウトが発生し、電源が喪失したため、発生直後の基地局は予備電源に切り替えて動いたが、24時間を越えると確保していたバッテリーが切れて一日遅れで携帯電話の障害がピークになった。その時期から復電が段階的に行われたため、その時期から結果的に収束していった。

こうした事例の振り返りを行い、平素から対策を考えておくことが重要だということで、昨年10月に総務省の電気通信事業部長をヘッドに、主要事業者各社の役員クラスで構成する連絡会を立上げ、災害があった場合の初動対応の在り方について議論を重ねている。

政府全体としては、内閣官房国土強靭化推進室が中心となり、重要インフラ全体について緊急点検を行い、携帯電話については特に高いプライオリティをつけて、災害応急活動の拠点となる市町村役場をカバーする全国で約1800ヶ所の基地局を総点検した。予備電源については大きな問題はなかったが、個々のケースでは災害発生直後の通信サービスの被害状況が把握できておらず、その反省を踏まえ、現在は自動化があまりされていない被害・復旧情報の収集を自動化していくであるとか、マニュアルを整備し、訓練をして初動対応を確かなものにしていくということを行っている。

 また、携帯電話事業者では、車載型基地局を増設するという取組を進めている。