カワセコンピュータサプライ株式会社
マーケティング部 部長
篠原 光氏
カワセコンピュータサプライ㈱は会社設立が昭和30年と、「ビジネスフォーム」業界では老舗的な存在である。「ビジネスフォーム」と聞いてもぴんとこない読者も少なくないと思うが、帳票・伝票など定まった様式に定期的な情報の印字を行うために加工された連続用紙を「ビジネスフォーム」と呼んでいる。同じ項目に異なるデータを入れてユーザに伝える場合に便利な媒体である。私たちが、銀行や生命保険会社、公共機関などから定期的に紙で届けられる個人の口座情報などは、この「ビジネスフォーム」に印字されたものだと聞けば、なるほどあれかと合点がいくだろう。
この個人情報を迅速・安全に届ける仕組みをクラウドに拡張し、タイムスタンプも装備したのが同社の『クラウド請求書発行サービスEBS(Eco Billing Service R)』である。同社マーケティング部長の篠原光氏に話を伺った。
「ビジネスフォーム」を核に個人情報の大量処理に最適化したサービスを提供
ビジネスフォームのメーカーとして活動を開始したカワセコンピュータサプライ㈱は、操業当初はフォーム自体を製作するメーカーだったが、次第にエンドユーザー向け仕事を増やし、顧客企業から預かったデータをフォームに印字して、さらには顧客のエンドユーザー宛に送付まで行うアウトソーシングの仕事へと業容を拡大していった。今で言うBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)の活動が同社の仕事の中心になってきたのである。
これにあわせて以前は印刷工場だった現場は、セキュリティ機能が完備された情報センターに発展していった。千葉県佐倉市の千葉リサーチパークに立地する5千坪のセンターは、フォーム印刷、情報の印字、封入封緘業務まで行えるよう、各種の機械とサーバルームを備えている。顧客企業から送られてきたデータを受信し、同社が独自で作成したプログラムにそれらを通して顧客毎に異なるフォーマットに印字し、最終的には一件ずつ記載されている数字や情報内容が異なる個人情報満載の発送物をエンドユーザーの元に配送するのである。
センターのセキュリティ管理は厳重で、業務のエリア毎にセキュリティのレベルを設定し、作業員にも資格を設けて入退室を管理している。外部からの侵入や盗撮等による情報漏えいにも配慮し、建物には窓を設けない徹底ぶりだ。
ビジネスフォームの作成、お客様情報の印刷という業務を核としながら、その前後に業務を広げ、安全で一貫した処理ができるBPOの会社としてサービスを提供できるのが同社の強みなのだ。
請求書をクラウドを介して発行する「EBS」
さらにそのサービスを一歩進め、ICTを用いたソリューション提供に舵を切ったのが、同社マーケティング部長の篠原光氏だ。
「リーマンショックや東日本大震災を経験した産業界の経費節減への要求は強くなっており、我々も単純に合理化を進めるだけではお客様の要請に応えることが難しくなってきました。そこで案件のコストの約半分を占める輸送コスト、つまり郵便料金を削る必要にフォーカスし、サービスがデジタル処理で完結するような方法を検討することにしました。お客様要望に従い印刷・発送機能も残すことを前提に辿りついたのが、我々の『エコ・ビリングサービス』です。
篠原氏は前職でクラウドを用いたサービス開発の実績を持っており、この領域に踏み込むことにためらいはなかった。ワークフローの作成、セキュリティを維持する仕組み、本人の識別の仕組みなどをクリアし、それをクラウドで実現することができるかを篠原氏は検討していった。
そのうえで課題となったのが電子帳簿保存法の要請に如何に応えるべきかである。請求書は電子帳簿法で法的な要件を課されており、それをクリアした上で輸送費をなくす以上の利便性を提供するサービスを作りたいと考えた。
「私は経理については詳しくなかったのですが、紙で7年間の保存が義務付けられていることに対する負担感はかなりあるだろうと考えました。お客様に訊くと、段ボールに入れて安い倉庫を借りて管理をするなどという工夫をされていることを知り、デジタルの時代に利便性を極限まで追求することによって企業力を高め、ひいては国力を高めることにもつながるようにと考えながら企画を進めました。」(篠原氏)
こうして『クラウド請求書発行サービスEBS(Eco Billing Service R)』が始まったのは2012年である。このサービスを使えば、顧客企業は請求書のバッチデータを専用サイトにアップロードするだけで、システム側が自動的に請求書の電子帳票PDFを生成し全帳票にタイムスタンプを付与する、そして受信者に指定した時間に電子メールで通知をしてくれる。発信者は生成したすべての電子請求書を、電子帳簿保存法に基づく検索ができるため、紙での保存が不要になる。受信者であるエンドユーザーは、自分あての請求書PDFとCSVの両方をいつでもダウンロードできる。このPDFの真正性をタイムスタンプによって保証することができるのが、本サービスの特徴だ。
サービスの当初案ではメール添付でPDFをエンドユーザーに送る方法考えていたのだが、相談に出向いた東京国税局で、それでは郵便とは異なり相手が受け取ったか否かが分からない、発送したことにならないと言われてしまった。そこでエンドユーザーにダウンロードをしてもらう方法を採り入れ、その証跡をサービス提供側で確認できるようにした。タイムスタンプを導入することで、税法上の課題が一挙に解決できると知ったのもこの当時だ。
その際、発信者が電子帳票の検索を行う場合、電子帳票の件数が増大しても一定以上の検索スピードを保つため、クラウド上のサーバに蓄積したテキスト情報を用いて行い、ダウンロードを選択した際にデータベースに保存されているタイムスタンプを付与したPDFファイルを瞬時に呼び出してくる方法を採用した。また、従来通りに紙に印刷し発送する場合はワンクリックで依頼できる機能も設けている。これらの仕組みは競合するサービスにはない独自のもので、同氏が考案したこのビジネスモデルは、特許を取得している。
タイムスタンプの普及には税務や電子帳簿法への理解促進が不可欠
エンドユーザー毎に内容の異なる情報を、クラウドを介して大量に処理・提供でき、しかも電子帳簿保存法の要請にもタイムスタンプで応える『クラウド請求書発行サービスEBS(Eco Billing Service R)』は実に画期的なクラウドサービスだが、実際には競合サービスに対してなかなか勝てないという現実があるのだという。
篠原氏は次のように語る。
「働き方改革などの議論もあり、皆さんのサービスに対する評価は進んでいるのですが、他社のサービスを最終的に選択したというケースが少なくありません。そこで理由を尋ねてみると、現行の税法も、電子帳簿保存法も、タイムスタンプのことも皆さん十分にご存知ない場合が多いのです。電帳法に対応するタイムスタンプの機能についてご説明しても、「あった方がいいんだろうな」程度の理解です。そのため、タイムスタンプが装備されていなくても、大きな実績があり、安価なサービスがあれば、そちらを選択してしまうケースが増えています。」
さらには、タイムスタンプをはずせばどれぐらい安くできるのかと尋ねてくるお客様さえいるのが現状だという。
新しいサービスがキャズムを越えられない現状に対し、篠原氏は大勢を好み、実績を重視する国民性を指摘しつつ、タイムスタンプが産業界で十分に周知され、世間に理解されることの重要性を語る。
「結局、タイムスタンプや電帳法への市場の理解が足りていません。最近はさらに電帳法に対する解釈のハードルが下がってしまっている感があり、タイムスタンプがなくても同一のシステムで管理をし続ける限り、改ざんや削除をしないようにサービス規定を作り、ログが分かるように運用を工夫すればそれでよいと認識される向きがあります。もし、その理屈を信じるならば、同じシステムを使い続けている限り、タイムスタンプはなくてもよいのかもしれませんが、IT技術の更新が非常に速い現状で、同じシステムを使い続けるという方針がこの先も不変である保証はどこにもありませんし、もしクライアントが将来的に自社のサーバで管理することになった場合に過去の請求書PDFを利用しているサーバから取り込んだとしても、タイムスタンプが無ければ真正性が保証されていないPDFファイルとなるため、電帳法の規定から外れたものとなってしまします。
電帳法に対応できなければ本当にまずいと分かれば、特許も得ている私どものサービスに対する問い合わせが増えるはずですが、制度への理解が十分でないために、タイムスタンプを装備したサービスの重要性を認識してもらえません。そこで、例えば貴協会のような公的な立場にある団体が、その必要性をもっとアピールしてくれることが、今後はさらに必要だと感じています。」(篠原氏)
こうした話を聞くと、同サービスの今後の伸長は、社会のタイムスタンプ受容のバロメータの一つなのかもしれない。その意味で、ぜひ『EBS』にもがんばっていただきたいし、当協会もタイムスタンプを含むトラストサービスの理解促進に向けて、さらにアクセルを踏んでいきたい。
【企業プロフィール】
会社名:カワセコンピュータサプライ株式会社
所在地:東京都中央区銀座6-16-12 丸高ビル4F
代表者:代表取締役社長 川瀬康平
設立:昭和30年5月21日
ホームページ:https://www.kc-s.co.jp/