国税関係帳簿書類のスキャナ保存で拡大するタイムスタンプ利用

アンテナハウス株式会社
取締役 e-ドキュメントソリューショングループ
グループリーダー
益田 康夫 氏

「将来的に紙の書類をどう扱ったらいいんだ?!」という悩みや疑問は、おそらく全国津々浦々の組織で囁かれているはずだ。書類の作成と保管は事業を遂行するかぎり常に付いて回る作業であり、仕事をする上では息をするのと同じぐらい当たり前の行為だが、その上手下手は組織全体の効率に大きな影響を及ぼす。さらにe-文書法で書類の電子化が認められ、電子帳簿保存法で国税関係の書類の電子化への対応方法が具体的に定められた現在、文書の電子保存への対応は多くの企業にとって真摯に取り組むべきテーマとなってきているのである。今回は、帳簿書類電子化のソリューションを提供するアンテナハウス㈱の益田康夫取締役にお話を伺った。

多言語組版ソフトで世界をリード

   アンテナハウス㈱は1984年創立と社歴は長い会社ですが、益田さんは2010年に加わっていらっしゃいます。アンテナハウスがどのような会社なのか、概要をご紹介いただけますか。

 アンテナハウスは社員数約50人の小さい会社ですが、そのビジョンをひとことで言うと「データ有効活用のためのソフトウェアをつくる」ということです。当社代表取締役の小林徳滋の口癖は「世界で売れるソフトをつくる」でして、『Antenna House Formatter』は、世界中のお客様にご利用いただきながら 18年目を迎える大容量・多言語データに最適な自動組版ソフトです。独自開発した PDF出力エンジンで、アクセシブルなタグ付きPDF や印刷用の PDF/X、長期保存 PDF/A などさまざまなPDF形式の出力ができます。これはXML組版を多言語で対応できるようにするソフトです。日本語、アラビア文字、中国簡体字、中国繁體字、ハングル、など、Unicodeで扱えるほとんどの文字を扱うことができ、50以上の言語に対応しています。これが当社の3本柱の1本目になります。

 グローバルに民生品を提供している家電メーカーや、航空機メーカーなどは全世界に向けてマニュアルを作らなければなりません。ということは翻訳者が世界各国語に対応すると同時に組版も多言語で行わなければならないわけです。そうした需要に対応できるソフトが『AH Formatter』で、北米に直接子会社を置き、そこから欧州など世界に販売しています。例えば、カメラや冷蔵庫などを国際展開されている事業者様のドキュメント制作では、各種マニュアル関係の自動組版エンジンとして使われている例が結構あります。

 例えば、日本の国税庁に相当する米国の行政機関が内国歳入庁(IRS)です。米国ではほとんどの給与所得者が確定申告をします。この確定申告マニュアルは、英語表記のみでなく、スペイン語などでも提供されています。これらの納税に係るマニュアルは米国で聖書に次いで発行部数が多いと言われていますが、『Antenna House Formatter』で組版されています。

時代のニーズに即応したコンバータ事業から『瞬簡PDF』シリーズへ

 3本柱の2本目は『瞬簡PDF』の分野です。
ワードプロセッサーの専用機時代からDOSで動く『Word』やWindowsで動く『一太郎』などのワープロソフトが出てきて専用機が淘汰されるまでに、およそ15年ほどかかっています。ワープロ専用機が普及し、官公庁や大企業が様々な独自フォーマットがあった専用機を使っていたので、それらをどうするかが問題でした。ユーザの家には山のようなフロッピーディスクがあった。そこでMS-DOSやWindowsで読めるファイルにコンバートするソフトを作ったところ、十数年にわたって当社の成長エンジンになりました。市場規模は限られていたので大手が入ってこなかったのも幸いしました。
コンバータの需要が90年代でひと段落しましたが、次の製品として2005年にPDF事業に本格的に参入しました。2009年には事業を強固にするためにクセロ社の事業譲渡を受け『瞬簡PDF』という製品を改良・機能強化して提供し続けています。
特に一押しが『瞬簡PDF 統合版 10』です。PDFを最大限に活用できる『瞬簡PDFシリーズ』の5製品を同梱した大変便利でお得なパッケージ製品です。PDFの作成、ページ入れ換えなどの編集、Office文書への変換、文字の書き込み、捺印、ページ番号の追加、しおりの編集など、さまざまな機能を持つソフトが詰まっています。

   貴社は2015年9月に稲盛経営者賞を受賞しています。当時は営業利益が4.4倍になったとお聞きしました。

東日本大震災で世の中の景気がガクッと落ちましたので、当社もその影響を受けました。その腰折れした後のV字回復を図ったことに対し、ご評価を頂きました。
従来は、商流としては、ソフトバンク様などの流通系や、ヨドバシカメラ様に置くパッケージ販売などを手掛けてきましたが、それらだけでなく、民間企業や官公庁向け向けに大規模サイトラインセス『AH-ULL』を作って売り出したりして工夫を加えてきたことなどが徐々に当たっていったということはあります。

e-文書ソリューションソリューション『ScanSave』(スキャンセーブ)

   3本柱の3本目が、今日の本題であり、益田さんが所掌なさっているe-文書ソリューション事業ですね。

 『ScanSave』という紙の書類をスキャナ保存するためのソフトを提供しています。この製品は屍を乗り越えてきた製品なのですが、この『ScanSave』の前に最初につくった同種の製品の販売実績は、たったの1本でした。その後、2015年に中小規模のお客様にも受け入れられるようにと、PC上で動く『ScanSave』のプロトタイプを作ったところ、「買いたい!」というお客様が出てきたので、Version1を作りました。すると「パソコンでここまでできるのなら、クラサバにして欲しい」と言われてVersion2を作りました。そのVersion 2では同時に20接続までしかできなかったのですが、ある大きい企業様が「これを欲しいから、同時接続無制限版を作ってください」と要望されました。さらにクラサバだけではなくウェブでも動くようにしてほしいと言われてVersion 3を作りました。我々はそのようにお客様に寄り添いながら製品を発展させてきました。

 私どもの製品は電子文書保管管理に特化しているので、お客様がお持ちの会計システムやワークフローと組み合わせ、タイムスタンプが使えて、スキャナ保存や「電子取引」PDF保管ができ、CSVやWeb連携のインターフェースがしっかりとれるという親和性に優れたシステムです。だから既存の社内システムに組み込んでもらいやすいということがあります。

コンサルティング力が支えるe-文書ソリューション事業

   益田さんは、公益社団法人日本文書情報マネジメント協会(JIIMA)でも法務委員会の副委員長をお勤めになるほか、文書情報管理士上級や行政書士、CompTIA CDIA+の資格をお持ちです。そうした知識に裏打ちされたコンサルティングが重要だということでしょうか。

 同業界のコンサルタントは、提案範囲が広くなかったり、偏った法令要件知識であったり、経験不足の方が散見されます。スキャナ保存を導入するときに何を考える必要があるかをコンサルティングでしっかりとお客様に理解してもらうことが重要です。

 コンサルティングは、プレコンサルティングとポストコンサルティングに分かれますが、とくにプレコンサルティングの重要性が大きい。コンサルティングを行う際には「どういう業務で証憑を扱いますか?」、「対象の証憑の特徴や件数はどうなっていますか?」、「電子化のやり方は集中方式ですか、分散型ですか?」、「連携する業務システムにはどのようなものがありますか?」、「バックエンドの会計はどうなっていますか?」などといった一連の質問に答えていただきます。これらを押さえることで概算見積が可能になります。ご注文を頂くと要件定義を行った上で、事務処理規程を作り、また申請書に添付する事務処理フローなどを作り、電子帳簿保存法第4条第3項に絡む適正事務処理5規程の支援をした上で、導入、教育、本番の運用となります。

 私どもは、「税務調査が入る場合には、こういうところを確認されますよ」などというところまでお客様に寄り添ってご支援します。ですから、お客様からは、「他のベンダーさんは、実際にどうやるのかまでは面倒を見てくれず、それはお客さんがコンサルティングを別途専門家に依頼するなどして自己責任でやってくださいとなってしまうのに、アンテナハウスはワンストップでやってくれるので助かる」と喜んでいただけます。我々の強みは、法令要件に裏打ちされた製品と提案力と財務会計部門などの現場を熟知するとともに、ユーザの意見を機能アップにつなげている点にあると考えています。

社内文書、証憑の取扱い全般を見渡した上で実施するコンサルティング

   結果的に、いろいろなお客様への対応も可能になっているということですね。

 他社は、スキャナ保存ソフトを開発し、営業教育をしても、スキャナ保存の範囲にとどまってしまう傾向があります。スキャナ保存のことは分かっても、周辺領域に話を振られると分からない。「電子的な方法でPDFをもらうことがあるが、それはどう処理すればよいのか?」、「EDIではどうすればよいのか?」、「伝票の扱いは?」などといったことを問われると、スキャナ保存自体の知識ではないので対応が難しくなってしまいます。そんなわけで全体を理解している当社にお話しを頂くことができています。

   我々がタイムビジネス協議会の中で議論をしていても、全体の中でどの部分の話をしているのかが不明瞭になってしまう場合があります。

 例えば、お客様が使われる言葉の中に「帳票」という言葉があるのですが、これが曲者です。「帳票」という用語は電帳法の国税要件の中にはありません。「帳簿」か「書類」か「スキャナ」か「電子取引」です。ですので、お客様が「帳票」とおっしゃたら、実際に何について話をしているのか、目線を合わせながら検討をしないといけません。得てしてコンサルタントや提案するSEが、それらの目線合わせが不十分で、要件定義が曖昧になってしまいます。我々はお客様と正確な目線合わせができるところが強みです。

 知識不足からお客様が失敗をおこされる事例はたくさんあって、ある企業様では、お客様の間違った法理解を基に、提案側もそれに気づかずに、勘違いをしたままシステム導入が社内稟議まで進んだところで、私どもがそれに気がつき、不要な投資を抑止できたなどということもありました。

 また別の企業様では、Windowsのフォルダ管理を行う際に訂正削除の履歴確保ができない要件不備があり、3年の間書類を誤って捨てていたのに気が付いて、当社の『ScanSave』に変えてもらいました。

   導入を検討する場合にシステム担当者はどのように絡んでいますか?

 中堅企業の場合には、総務の中にシステム担当がいますので、むしろスムーズにいくのですが、大企業の場合には、購買・経理・業務・情報などの組織に横串を指すのがとても大変です。

スキャナ保存によってタイムスタンプの需要は拡大する

   スキャナ保存については、スマートフォンの利用を容認した際に、個人事業主への浸透も期待されましたが、実際にはどの程度の規模の企業にまで普及しているのでしょうか?

 当社の場合にはお客様は年商12億円規模の事業者様からいらっしゃいます。

   それでも年商12億円ですか。小規模の会社ではないですね。

財務と経理の支払い係が分掌できていないとこうした仕組みを入れる意味が大きいとは言えませんし、一定量の文書の取扱いがないとメリットが出ません。そうしたことを考えると、ある程度の規模の事業者になります。

   国税庁が10月に発表したスキャナ保存文書の税務署承認件数が、前年度が380件だったのに対し今年度が1,050件と増えていますが、この次の発表時にはもっと伸びそうでしょうか?

 帳簿書類のデータ保存が19万件と言われていますので、それを考えると増える余地は大きいと思います。お客様に「1,050件とかなり増えています」と話をすると、「それで増えているの!」と言われてしまうことがありますし、上位2社で申請のおよそ100件を占めていますから、まだ数は少ないですね。しかし、タイムスタンプ利用に力を入れている企業がたくさん出てきていますから、今後の申請数は5千件、あるいは1万件程度まではすぐに到達するのではないかと思います。

   そうすると貴社のお仕事も忙しくなりますね。

 すでに昨年に比べると、提案件数はかなり増えています。2年ほど前は「どういう話なのか、ちょっと教えて」というお客様がほとんどでした。それが去年の秋ぐらいからは「導入を考えているんだけれど、RFPはこういうものでいいですか?」、「RFPを書いたからコンペに参加しますか?」とお尋ねになる企業様が増えてきました。かなり潮目が変わった気がします。
タイムスタンプの利用とともに電子帳簿保存法の施行から明らかに伸びてきた感があります。

   貴社の今後の対応はどういった方向になりますか?

 『ScanSave』のクラウドサービスをすでに開始しています。申し込んだら認証用のプログラムを用いて、すぐにブラウザーを開いて利用をすることができます。クラウド版を作ったことによって、さらに声がかかるようになってきました。
 我々は、社歴はありますが、この分野に関しては後発ですから、大手と同じようなビジネスはできません。ベンチャー的な精神で小さく産んで、お客様に寄り添いながら製品を大きく育てるようにしています。

スキャナ保存の次の一手として重要なタイムスタンプ技術

   世の中では電子レシートなども検討されています。

 そうですね。我々も一般社団法人フィンテック協会に加盟し、その電子レシート分科会の動きなどに注目をしています。いずれにせよ、電子帳簿保存法だけに依存していてはビジネスの広がりは限られてしまいます。紙は減ってきていますから、スキャナ保存自体が注目されるのは、あと数年ではないかとも思っています。EDIや電子取引がどんどん広まっており、将来的には電子保存が中心になってきます。ですので、私どもの事業としてはその次を考えていかなければなりません。

 我々のコア技術には各種電子ファイルの変換編集、PAdES、XAdESなど電子署名・タイムスタンプの技術がありますので、そこを広げていく必要があります。JIIMAで建築設計業務における「設計図書の電磁的記録による作成と長期保存のガイドライン」が昨年12月18日に公開されていますし、そうした新しい分野を広げていき今後の柱にしなければならないと思っています。

図表:アンテナハウスのe-文書事業領域のイメージ

   最後に何かひと言、読者の皆さんに向けてメッセージがあればお願いします。

 今年の『会計・財務EXPO』(7月11日~13日)出展にはぜひご期待ください。例えば『PCAクラウド』とのWebAPI連携や、『勘定奉行』とのシームレスな証憑添付や仕訳連携など、私どものアライアンスパートナーとの関係を発展させた新しい機能をご紹介できる予定です。

(インタビュー:日本データ通信協会タイムビジネス部 伊地知、森岡)