新年に寄せて

一般財団法人日本データ通信協会 理事長 酒井 善則

 日本データ通信協会が設立されてから今年で45年目になる。45年間協会の活動を支えて頂いた皆様、機関誌をご愛読頂いた皆様に改めて御礼申し上げたい。天皇陛下のご退位にともない来年は新しい元号が制定される。協会は昭和に設立され、平成、次時代と3時代以上情報通信分野で活動することになる。この間の情報通信の進歩は大きく、設立当初はディジタル化がキーワードであったが、その後、マルチメディア、ブロードバンド、ユビキタスと変わり、次時代は、IoT、AI、ビックデータ、5G等がキーワードの中心となると思われる。 私の専門分野は工学であり、少なくともディジタル化までは情報通信の技術的基盤は工学であった。しかし、マルチメディア以降、工学に加えて情報学が重要な基盤となり、更にIoT、AIの時代になると情報通信分野で活躍する人間に求められる知識は大きく変りつつある。ICT人材という言葉が多く使われている。IoTに特化したIoT人材の必要性も多くの報告書等に記載されている。IoTに関しては技術的側面とともに、実際の社会システム設計の能力も必要とされている。つながる車、家電機器、工場内の装置からの情報収集等を考えた場合、得られたデータからどのように価値ある情報をとりだすかも重要となってくる。文系、理系という従来の教育の枠組みも大きく変るものと予想される。経済学、心理学は文系とされているが、経済学の基礎は統計学を含む数学であり、心理学は脳科学、統計学と密接な関係がある。学問分野の再分類は今後必要になってくる。

 人材教育の役割分担は近年議論になっており、社会から大学に対してソフトウェア人材、標準化人材等の教育も要請されたこともあった。しかし大学は学問分野の教育、研究を行うことが最重要の役割であり、学問分野に対応して教員が配置されている。このため社会の要請は必ずしも大学教員の専門とマッチしていないので、その方策について多くの議論がなされた。大学では経験しにくい標準化分野については、社会で活躍した専門家が教員として教育した。ICT人材、IoT人材も同様であり、ICT科学、IoT科学が成立するまでは大学に対して教育プログラムを提案する等、社会と大学での協力関係が重要になってくる。

 協会の業務は多様化しており、個人情報保護、情報トラストサービス、迷惑メール対策はコンピュータ技術から法律まで含んだ知識が要求され、いわば高位レイヤ中心の分野とも言える。一方、電気通信主任技術者、工事担任者、情報通信エンジニア等の試験・教育活動は、従来は工学系の分野が主体で低位レイヤ中心であった。ICT人材、IoT人材まで考えた場合、協会でも総務省と連携して文系・理系を含んだ各分野のレイヤの見直しを検討することが極めて重要になってくる。

 今後のデータ通信協会が新しい分野で新しい役割を果たしていくことを皆様にご援助頂きたいことをお願いして、新年のご挨拶としたい。

(初出:機関誌『日本データ通信』第217号(2018年1月発行))