セイコーホールディングスグループ内のICTビジネスを集約して生まれたセイコーソリューションズ


セイコーソリューションズ株式会社
代表取締役会長
山本 隆章 氏

[聞き手]
一般財団法人日本データ通信協会
専務理事
井手 康彦

 IT技術によって人々の暮らしをより豊かなものにするデジタルトランスフォーメーション時代が本格的に到来している。あらゆるものがデジタル化され利便性が向上する一方で、改ざんや偽造などの問題も表面化してきた。データの信頼性をどのように担保するのか、企業にとっては避けては通れない大きな課題となっている。セイコーソリューションズ(株)は、セイコーホールディングスグループが培った技術力を基盤に、タイムスタンプや電子署名といった「その日その時に間違いなく発行された文書」であることを証明するサービスを展開している。昨今、注目が高まっているタイムビジネスの現状と将来の展望について、同社の会長であり、かつタイムビジネス協議会の会長も務める山本氏に話を伺った。

   会社概要からご説明をお願いします

山本
 セイコーソリューションズ(株)は、時計のセイコーで知られるセイコーホールディングスグループの1社です。いわゆるデジタルトランスフォーメーションによって、グループ内のICT関連事業部門を集約し、ハードウェア、ソフトウェアの両面から情報システムやネットワークサービスを提供する事業体として2013年にできた非常に若い会社です。現在は資本金5億円、約600名の社員を擁しております。セイコーホールディングスグループは、時計の開発製造や、電子部品を中心に事業を展開しているセイコーインスツル(株)のように、ものづくりを主とした企業が大半です。しかし近年、モノだけでなくICTビジネスがグループ内の別々の企業内で散発的に生まれてくるようになってきました。それらを統合して設立したのがセイコーソリューションズ(株)です。

   どのような特徴があるのでしょうか。

山本
 ICT企業の多くがソフトウェアを中心とした事業を展開しているのに対し、我々はセイコーが培ってきたものづくりとクロスさせ、付加価値の高いサービスを生み出していくことができるのが大きな強みです。統合の母体となった各事業体では、プロトコルコンバーターをはじめ、ルーター、無線モデムや無線技術をコアとした応用製品など、ネットワークでは古くから技術を積み上げてきております。これらハードウェア技術と、ソフトウェア、サービスとを掛け合わせた三位一体を付加価値にして、「時代の一歩先を行く」という方針を掲げて事業を展開しております。事業は、システムインテグレーション、決済ソリューション、ネットワークソリューションとモバイルソリューションの4分野を中心にしてきましたが、そこにデジタルトランスフォーメーション事業を新たに立ち上げ、タイムビジネスはこの領域の核となるソリューションとして展開しています。タイムスタンプと上位のソリューションサービスを含めたビジネス領域で市場を拡大していこうと考えております。

   グループの中で別々に活動していたICT事業をひとつに統合した企業なのですね。

山本
 グループ内のICT関連事業体であったセイコーインスツル(株)のICT関連事業会社3社とセイコープレシジョン(株)のシステム事業部が融合してセイコーソリューションズ(株)になりました。これまでハードウェアが中心でしたが、最近はニーズも変化して、次第にソフトウェアやサービスに取って代わられつつあるという印象です。そこで我々は、さらに上流のサービスを強化していこうと考えています。新事業の中では、コンピュータやサーバの監視、予兆管理などもサービスとして伸ばしていきたいと考えています。こうした管理系の重要性は今後も高まり続けるでしょう。当社の強みである、三位一体での事業展開を考えております。

   これから御社が進んでいく方向性としては、どのようなビジョンを持たれていますか。

山本
 我々がもっている最大の価値は、お客様のビジネスに貢献できるハードウェアと、それに付随するサービスとを、セットで提供していけるというところだと思っています。このような形態は、デジタルトランスフォーメーション時代という追い風を受けて、大きく発展できるのではないかと、最近の当社を取り巻く状況から肌で感じています。この数年で、デジタルによるビジネス変革を体感することになるだろうと予感しているのです。

 その象徴的なものが、タイムスタンプです。

 デジタル化が前提の中で、どのようにしてデータに信頼性を持たせるか。あるいは逆に、どのようにしてそのデータの真正性を確認するか、といったニーズはたくさん出てくると思います。そこでタイムスタンプは不可欠なものになる。ただ、このタイムスタンプをどのようにビジネスモデルの中に組み込みつつ、利益を確保できる体制をつくっていくか、が目下の課題です。

   確かに、兆しが見えてきたというのは私も感じます。これまでタイムビジネスに着目していた業種の中には、倉庫業や会計関係の事業者はありませんでしたが、最近はそういう企業が参入されてきました。倉庫業に関しては、デジタル化によって文書などの紙を保管してくれる顧客の動向を先取りしてデジタル情報を、信頼性を確保して長期に保管するためにタイムビジネスにたどり着いたようです。

山本
 紙がなぜ減らなかったかというと、デジタル化によるストレージ使用料、データの信頼性確保やセキュリティのリスク対策など、いろいろなコストを総合すると、人件費を使ってでも紙のほうが安かったのだと思います。それが今、どんどん技術が進化して、コストが非常に安くなってきました。

   ようやくですね。

山本
 紙とデジタルのコストが入れ替わる“シンギュラリティー”、すなわち今がその分岐点だと思うんです。まあ、デジタル化がこれ以上進んでも、結局、紙は完全にはなくならないと思いますが(笑)。

   やはり、ゼロにはなりませんね(笑)。とはいえ、最近では税や知的財産などを扱う法律関係の方々の理解も広がりつつあるので、今後は大きな変化が期待できるのではないでしょうか。

ビジネスとしてのタイムスタンプの可能性

   タイムスタンプのビジネスとしての収益性はいかがでしょうか?

山本
 タイムスタンプはこれからもっとニーズの高まるサービスだと考えています。ただし、それ単体で大きなビジネスになるかというと、現時点ではまだそのレベルに到達していません。タイムスタンプ単体で考えるのではなく、やはり我々がこれまでに培ってきた資産に上手く組み込んでいくことが重要です。タイムスタンプを使いたいというお客様なら、きっとその周辺のシステムをお持ちであったり、必要とされていたりするはずですから、そこも含めて包括的な仕組みをご提供する、そういう発想です。

   それがソリューションだということですね。

山本
 そういうことです。タイムスタンプをきっかけにしてお客様のシステム全体のソリューションをご提供できるよう、我々も対応力を強化しております。
例えばブロックチェーンの仕組みにしても、特にタイムスタンプとセットであるから、より精度の高いものにしていける。そういうニーズが必ずあるのではないかという気がしています。だから、そのニーズを具体的に見つけて、実際にサービスを作りあげるということを、今年度から来年度、やりたいなと考えています。

   タイムビジネス協議会の中にも普及促進ワーキンググループというものがあって、タイムスタンプを活用してもらって、事例を共有して…ということはやっていますけども。どこかで爆発的に普及するということに、ぜひなって欲しいという思いです。
2016年度の話になりますが、従来よりもタイムスタンプが認知される契機となったのが電子帳簿保存法の改正でした。国税関係書類のデジタル化を認めるにあたり、その完全性を担保する方策として、従来は電子署名と我々日本データ通信協会の認定する業務に係るタイムスタンプの付与が義務付けられていました。この改正でデジタル化された情報の改ざん防止対策はタイムスタンプのみになりました。

山本
 そこで我々のようにタイムスタンプサービスを提供する事業者として一番の課題は、デジタル化によってユーザーが負担するイニシャルコスト(初期投資)。これをどうペイさせていくのかの見通しまでを含めた提案が必要です。セキュリティを堅牢にしておかなければならないようなデータを取り扱っている企業などが、最初のお客様になっていくのかなという気がしますね。

   製造関係よりも、医療や金融、保険などの業種でしょうか。

山本
 そうですね。医療分野ではすでに電子カルテが普及しておりタイムスタンプは必須かと思います。他にも、面白い市場があちこちで築かれていくと思います。

「モノ」から「コト」へ。新しい時代のビジネスモデル

   ものづくりからICTへと軸足を移し、どう変わりましたか。

山本
 今まではモノを作って、性能や品質などでユーザーに信頼していただくということを重視しながらやってきたのですが、ICT事業をやるとなると、モノだけじゃなくてコト。弊社のサービスを利用することで、今までにない経験・体験をしていただくことができて、信頼性を上げていくという、コトを中心に据えたビジネスモデルの構築を急がなければなりません。

   それは過去の通信の歴史がもの語るところではあります。かつて電話交換機というものがあったのが、サーバ、ルーターに全部替わられていって

山本
 おっしゃるとおりです。代替手段は、次々と生まれてくる。結局、交換機というモノが必要とされていたのではなく「そういうコトができる」という体験だと思います。だからより性能が良く、低コストで導入でき、魅力的な新機能が付与されている代替手段に人は流れていくわけです。そこに早く気付いてビジネスを構築していかなきゃいけない。

 だから利益の生み出し方も、従来のように1個売っていくら頂戴する、という考え方ではなくて、コトを提供するサービスに対して継続的に対価を頂く。ME&S(メンテナンス・エンハンスメント・アンド・サポート)をきちんと提供することでお客様との信頼関係を築くことが重要だと思っています。

タイムビジネス協議会の今後の動向

   2017年4月よりタイムビジネス協議会の会長にも就任していただきました。協議会について、今後のお考えをお聞かせいただければ。

山本
 そうですね。やはりいろんなアプリケーションや市場、産業があるんですけど、そこにどうやって普及させるかということを考えると、やはりニーズが先でしょう。ニーズの高いところから、実際にソリューションを提供して、ビジネスとしても成立させる。その経験をロールモデルにしながら次につなぐ。そういうことを加速しなきゃいけない。誰がやるか、それは各社で競争しながらやるしかないと思います。ニーズが一番高いところを見極めるということをしっかりやっていけば、必ず近い将来に、タイムスタンプをただ押すだけのサービスではなく、実際に画期的なアプリケーションが出てくると思います。

 こうした市場の流れの中で、協議会として押さえていかなければならないポイントは2つあります。まずは、デジタル情報を信頼するにはタイムスタンプが標準だという認知度をどう上げていくか。それを市場全体にしっかり認知してもらうことがとても大事です。そこに力を尽くしていかなければと思っています。

 次に、国を跨いでご利用いただくためのインターフェイス。今後グローバルで考えたときに、さまざまな局面でタイムスタンプが使われるようになると、必ずインターフェイスの問題が挙がってくる。欧米基準に即して入っていくのか、あるいは日本独自で作り上げて運用するのか。アメリカ、ヨーロッパ、中国…各国間でのインターフェイスをどう整備していくか。それはここ数年で重要になってくると思います。それがないとたぶん頭打ちになって、どこかで伸び悩んでくる。国内向けのインターフェイスしかないならやらなくていい、というユーザーも必ず出てくると思いますしね。

 これら2つのポイントについての具体的なアプローチを、今後進めていこうと考えています。

   日本データ通信協会でも、認定タイムスタンプを利用しているサービスに対して「登録マーク」を付与する「認定タイムスタンプを利用する事業者に関する登録制度」を2017年4月1日から新たにスタートしました。現在登録されている事業者は2社ですが、今後はさらに増加していくものと考えています。

山本
 やっと始まったということですね。例えば、この制度に登録している事業者としていない事業者では、やっぱり登録しているほうが安心だよね、とユーザーに思ってもらえる。制度への登録がビジネス上の信用を高め、アドバンテージになるというような関係にいかに早く持っていくかだと思います。

   現在は広報活動で認知度の向上に努めています。メディアで記事にしてくださったりとか、プレスに出させていただいたりというかたちですね。

山本
 初期段階はやはり力を入れていかないといけません。ただ、ある一定の段階を超えると増加の波に乗れると思いますので、そこを目指したいですね。

   そうですね。そこに向けて加速していく。

山本
 そんな中でタイムビジネス協議会では、「e-トラストジャパン宣言!」というものも出させていただきました。高い信頼性確保が求められるあらゆるデータにタイムスタンプが付与されることなどにより、データ偽装のない社会の実現と数千億円規模の市場創出を目指す、という宣言です。この実現に向けては、官民問わず働きかけを促進しています。

   タイムスタンプの利用がビジネス的なメリットや利益につながる、そういう事例をいくつかつくることができれば、ユーザーはどんどん増えていくと思います。例えば個人情報保護の認定制度であるPマークも、時代の要請という側面は大きいながらも、Pマークの取得がビジネス的なメリットにつながるという理解が進んだこともあって、現在では広く浸透していますし。

山本
 タイムスタンプに関してはまだまだ認知度は低い。勉強会などを協議会で主催していますが、初めて知ったという方々もいらっしゃれば、実際に実証試験にトライしてみようかと言ってくださっている方々もいますね。今後も地道な広報を続けていく必要があります。

   国税、医療、会計…分野は幅広いですからね。

山本
 e-文書法で保存義務のある書類の電子化が容認されましたが、当時は長期保存などの標準化がまだ確立されておらず、未整備な部分があった。結局、業務の利便性のため電子化を進めても紙を原本として保存していた、ということが多かったように思います。今、ようやく長期的に電子記録の信頼性を担保するには、認定のタイムスタンプを利用することで簡便に可能であることがさまざまな省令やガイドラインに記載されたことで認知されるようになりました。これからは本格的に文書のデジタル化が進んでいくでしょうから、我々の果たすべき役割は大きくなっていきますね。

   おっしゃるとおりです。では最後になりますが、今回の対談の総括として一言お願いいたします。

山本
 冒頭からお話していますように、デジタルトランスフォーメーションの時代、ICTの技術の進化を考えると、これからの生活環境は急速にデジタル化が加速します。どんどんビジネスモデルが変わっていき、どんどんデータが溢れ出す。安全に安心してこれら膨大なデジタルデータを利活用するには、トラスト、つまり信頼という仕組みをどう作るかというのが、社会が求めるものすごく大きな課題の一つです。それを支えるのがタイムビジネスの仕組みだと私は確信しております。いろいろなサービスと組み合わせながら使われていくことで、社会に貢献すると共にどんどん市場が開けていくと思います。誠心誠意頑張らせていただきますので、よろしくお願いいたします。

【プロフィール】
山本 隆章(やまもと たかあき)氏
1978年成蹊大学工学部を卒業し、1986年セイコー電子工業株式会社(現セイコーインスツル株式会社)に入社。
同社執行役員、取締役を歴任。
2012年12月セイコーソリューションズ株式会社代表取締役社長に就任し、2017年4月より同社代表取締役会長。

(初出:機関誌『日本データ通信』第215号(2017年7月発行))