新しい時代と資格制度

一般財団法人日本データ通信協会
理事長 酒井 善則

 日本データ通信協会の主要業務の一つである工事担任者資格、電気通信主任技術者資格が生まれたのは40年近く前である。この時代、通信の中心は固定電話であり、その主要技術は有線伝送、無線伝送、線路、交換、端末機器に分類されていた。今でもその名残りは各資格の試験項目名等に残っている。電気通信を行う事業者も、現在のNTT、KDDI中心に、事業者数およびその業務範囲も限定されていた。しかし、時代は大きく変わり、現在ではネットワークを流れる情報は映像を含めた各種データが中心で、電話は音声通信の中でもマイナーな存在になりつつある。リモート会議でも、電話以外の方法で音声通信を行っている場合が多い。

 交換、線路という名前も電話網時代の用語のように思えるし、昔は重要であった有線、無線の区別も、5G、6Gの技術開発の中では、単に媒体が異なる伝送方式として一体として考える必要がある。有線、無線を組み合わせて要求を満足する伝送システムを構成することが通信技術者の役割になってきている。ネットワークスライシング技術により、従来は伝送路と交換機による物理的設備に対応していた各種ネットワークをソフトウェアで制御する仮想的なスライスごとに構成することが可能となり、物理的なネットワーク設備を十分持たない電気通信事業者の事業参入も容易になってきている。更にはホワイトボックススイッチという装置も生まれ、従来は専用の通信用ハードウェア、ソフトウェア一体で構成されていた通信制御機能を、ユーザが独自のソフトウェアを用いることにより、独自のネットワークを構築することが可能となりつつある。

 資格制度は創設した時代背景に整合するよう作られる。時代が変わると、その中身を改善することにより、時代に合った資格に変更していく必要がある。電気通信ネットワークにおいても、物理設備と独立に複数のネットワークが構成され、相互接続される。また、5G、6Gの時代になると、「超低遅延」、「超多数同時接続」、「超高速・大容量」といった機能により、はるかに厳しい基準を満足する必要のあるネットワークも増えてくる。工事担任者が担当する宅内での通信設備でもネットワークが高度化するとともにWi-Fiとレーダの干渉のように、多方面の分野の知識も要求されるようになる。資格制度の中身を改善するだけでは、時代に合った資格とならない時期も近づいている。

 日本データ通信協会は電気通信事業法に基づいた各種資格に関する国家試験の運用、教育とともに、ディジタル時代の利用者に対するアドバイザーの育成を行っている。更には情報セキュリティ、個人情報保護などの活動を行っているが、これらの活動は技術だけでなく、法律も含めて、新しい時代のネットワーク品質を保証する制度作りに直結する。従来の各種資格も含め、総務省に協力して、新しい時代にあった資格制度設計にもアドバイザーとしての役割を果たしていきたいと考えている。