感染症拡大とICT

一般財団法人日本データ通信協会
理事長 酒井 善則

 世界中で新型コロナウイルスによる感染拡大が大きな脅威になっている。東京オリンピックも延期になったが、流行がいつ終息に向かうか予測できていない。我々の生活も制約が増えている。テレビを見ても、殆ど毎日新型コロナウイルスが話題になっており、感染症専門家の解説が行われている。感染症がここまで身近な重要な問題となったのは私自身記憶に無い。

 提案、実施されている感染予防対策を見ると、ICTの役割が大きくなっていることに驚かされる。医学的治療、分析はもちろん重要であるが、感染の拡がりの予測は数理モデルで解析するとのことである。感染のオーバーシュート等の言葉も良く耳にするが、これも数理モデルが役立つのかもしれない。人の移動も、近年では携帯各社が携帯端末の位置情報を利用して空間統計としてマクロのモデル化を行っている。ミクロの視点では、感染者を含む個々の人々の移動経路をスマホの位置データにより追跡するシステムが開発されている。一部の国ではこれらのデータを公開することにより、感染者の立ち寄った場所も公開して感染予防に努めているとのことである。また治療面の新薬開発においても、多くの患者のデータを活用するビックデータ創薬、更にはAI創薬という言葉も聞く。薬学における情報学の活用は大きく進んでいる。更には、感染対策のために人の集まり、移動を小さくする、遠隔講義、テレワークの手段は殆どICTに依存することとなる。遠隔講義、遠隔会議を始めとするテレワークは、通信により画像、映像の伝送が可能になって以来50年以上の歴史を持ち、私自身、若いころ複数地点間の共同作業を容易にするグループウェアの開発を行っていた時代を思い出す。多くの企業がテレワークを使うようになれば、これらの技術開発も加速するとともに、誰でも利用できる簡単な運用法も必要となる。

 しかし、近年この分野のICTには新しい問題点が課題になっている。ネットワークで接続されたコンピュータについては、攻撃、なりすまし等によるデータの漏洩等が問題なる。ビックデータを用いて分析、予防するためには、データ分析の手法とともに、基となるデータの信頼性が重要となる。データそのものが誤る、あるいは改ざんされた場合は、優れた分析を行っても誤った結果となってしまう。更には、人の移動履歴のようなミクロのデータ使用の場合は個人情報漏洩の問題が大きくなる。新型コロナウイルス感染者の特定が可能になるような情報表示は、個人情報保護の大きな問題となる。

 日本データ通信協会は、タイムスタンプを始めとして、情報の信頼性保証のしくみを作成するための活動を行っている。また個人情報保護法に基づいて、個人情報を保護する活動を進めている。更には情報通信エンジニアの活動等を通して、通信システムの宅内工事、運用技術の教育にも努力している。これらの活動は、間接的ではあるが、世界規模の感染症拡大の予防にも貢献していると考えている。