トラストサービス推進フォーラム2018年度活動報告

トラストサービス推進フォーラム
副会長 宮崎一哉氏

 本稿は2019年6月17日、KFC Hall Annex(東京都墨田区)で開催された「トラストサービス推進フォーラム設立1周年記念シンポジウム」において行われたトラストサービス推進フォーラム副会長の宮崎一哉氏の講演内容を『日本データ通信』編集部で取りまとめたものである。

1.はじめに

 トラストサービス推進フォーラム、略称TSFは昨年の6月5日に設立し、約1年が経過した。本日は、初めて TSFの話を お聞きになる方もいらっしゃるので、設立までの経緯を簡単にご紹介した上で、昨年度の活動の要と今年度の活動計画をお話したい。

2.データ社会の進行とトラストサービス推進フォーラムの設立

 我が国ではSociety5.0に向けて新しい「「データ」がヒトを豊かにする社会」の実現が図られている。しかし、ここには「デジタルの陥穽(かんせい)」というべきものがあり、情報の改ざんが容易であるとか、ネットワーク上でのなりすましの危険があるとか、改ざん・ねつ造の疑惑を取り除くことができない場合、事後に否認の恐れがあるなどの問題があり、かえって疑心暗鬼を生じさせ、不安な社会を招きかねない。

 このような状態のもと、電子署名法準拠や信頼性を謳う民間サービスが出始めているが、その根拠が不明瞭で、利用者が信頼性を正しく判断できない恐れがある状況である。そこで流通されるデータの信頼を保証するトラストサービスの在り方を検討する必要があると考えられる。

 我々は、「タイムビジネス協議会(TBF)」という組織で時刻認証基盤を中心に考えてきたが、署名・認証・タイムスタンプ等の技術を高度に活用し、様々な事象を電子的に証明する電子証明基盤を構築する必要があるという考えに至った。

出典:トラストサービス推進フォーラム

 このタイムビジネス協議会10周年の際に、そういった構想を実現しようと、日本情報経済社会推進協会(JIPDEC)、電子認証局会議(CAC)、日本ネットワークセキュリティ協会(JNSA)などとともにTSF設立の準備に着手し、2018年6月5日の設立に漕ぎ着けた次第である。

3.フォーラム設立の背景と課題、目的

 下図はTSFの設立趣意書の抜粋である。現在は大量のデータが流通し、取引や業務がデジタル情報に依存する社会になってきている。通信により空間を超越して情報を瞬時に共有できる社会であり、時間を超えてあらゆるものがデジタルで記録されて保存され得る社会である。このようにデジタルファーストの時代となることにより超スマート社会の到来が現実的なものになり、リアルとサイバーの融合やビッグデータを活用したビジネスが誕生している。そのため、そこで扱われるデータやサービス自体の信頼性・安全性が問題となってくると考えられる。

出典:トラストサービス推進フォーラム

 するとユーザーにとって、ネットの向こう側にいる相手や、そこから送られてくるデータをどのように信頼すればよいかが重要な課題になる。そこで信頼の根拠となる、相手の認証、データやサービス自体の非改竄性、正当性を確認するための手段を提供する仕組みと基盤が必要となると考えた。

出典:トラストサービス推進フォーラム

 TSFの目的は、「従来のタイムビジネス協議会の活動と成果を受け継ぎつつ、信頼できるサービス(トラストサービス)の在り方と、ユーザーが安心・信頼してサービスを選択できる仕組みを検討し、それを実現する環境整備を推進することを当面の目的とする」としている。

出典:トラストサービス推進フォーラム

 その中で信頼できるサービスを可視化し、ユーザーが判断あるいは検証を可能とするための手段、欧州では「トラステッドリスト」がそれに当るが、そうした可視化の仕組みを構築するということを、産学官の連携の下、また欧州や米国など海外の機関とも協調して信頼を提供する基盤とスキームの構築を目指すのがTSFである。

4.前倒しで進むフォーラムの活動

 昨年の設立時に作成したスケジュールでは10年を3期に分け、それぞれの期において、基本的なトラストサービスの枠組みの検討、トラストサービスの業界展開、トラストサービスの普及・定着という計画を示したが、皆様のご尽力により極めて大きな状況の変化が生じた。その一つが6月7日に決定された「デジタル時代の新たなIT政策大綱」であり、「トラストサービス(データの存在証明・非改ざん性の確認を可能とするタイムスタンプや、企業や組織を対象とする認証の仕組みなど)の活用のための制度の在り方を含め、関係省庁間で連携し、法令に基づき民間企業等が行う文書保存等の一層のデジタル化に向けた取組について検討を行い、令和元年度内に結論を得る。」という一文が記載された。

 もう一つ、先週の金曜日だが、6月14日に「世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」が閣議決定され、トラストサービスの必要性、デジタル・トラストの共同構築、信頼性のある自由なデータの流通(DFFT)などが盛り込まれ、プラットフォームサービスの在り方に関し、トラストサービスについてもEU等の動向を踏まえつつ制度の在り方について検討を進めるとされた。
 こういった状況があるため、スケジュールを圧縮し取組むことを考えている。

出典:トラストサービス推進フォーラム

5.フォーラムの組織

 TSFの組織は次図のような形になっている。大橋正和教授( 中央大学総合政策学部、最高顧問)、須藤修教授(東京大学大学院情報学環)、米丸恒治教授(専修大学法科大学院)のお三方に顧問に就任いただき、総務省、情報通信研究機構にオブザーバーに加わっていただいている。会長は慶応大学の手塚教授、副会長はセイコーソリューションズ㈱、セコムトラストシステムズ㈱、三菱電機㈱から出している。

 この下に企画運営部会があり、事務局を日本データ通信協会が担当している。その下に三つのワーキンググループ、一つのサブワーキンググループを置いて活動してきた。

出典:トラストサービス推進フォーラム

6.充実した初年度の活動

  これら部会、ワーキンググループの昨年度の活動について紹介したい。

6-1.企画運営部会の活動

 まず企画運営部会だが、TSFの企画・運営に関わる情報共有・審議・決定に加えて、外部機関等との調整・共同作業等のとりまとめなど、活動は多岐に亘っている。
 その一つが「トラストサービス普及を目的とした国内環境整備の推進」で、総務省が主催する「プラットフォームサービスに関する研究会」および「トラストサービス検討ワーキンググループ」に参加している。特にトラストサービス検討ワーキンググループには多くのTSF会員が構成員となり、これまで7回の議論に貢献している。

 もう一つが「国際化への対応」で、日EUの政府間協議に産業界が加わった「日EU・ICT戦略ワークショップ」に参加している。2018年4月に東京で行われた第7回、12月にウィーンで行われた第8回会合に手塚会長とメンバーで参加し、ウィーンで手塚会長がプレゼンテーションを行った結果、日EU間における法整備の状況の差異について、今後確認作業を進めることで日EU間で一致した。

 第3が「トラストサービスの普及活動」で、政府や業界団体、有識者と積極的な意見交換と情報交換を実施した。総務省、国税庁、特許庁、金融庁などの省庁、経団連、全国銀行協会等の団体と意見交換を行ったり、また「日欧インターネットトラストシンポジウム2019」(2019年5月、慶応義塾大学 )や「トラストサービスの調査ワークショップ」(2019年2月)、その他マルチメディア推進フォーラム、経団連情報通信委員会懇談会、「A-Trust Innovation Day 2019」(ウィーン)などで講演を行ったりした。

 企画運営部会の活動の4つ目が「TSFの基盤強化」で、活動を積極的に紹介し仲間を募ってきた。ワーキンググループの活動の紹介や勧誘活動を積極的に行った結果、設立時に37だった会員が1年間で53まで増大した。

 欧州調査も行った。本年4月にEU諸国のトラストサービスプロバイダーにヒアリングを行い、ベルギー、オーストリア、ハンガリー、フランスの各国で、eIDAS規則施行後のトラストサービスの変化やeシールに着目し、その利用状況等を調査して報告会を開催した。

6-2.普及促進ワーキンググループの活動

 次に「普及促進ワーキンググループ」である。ここでは、主にタイムスタンプの観点から活動を展開してきた。その一つが電子帳簿保存法に関する取り組みで、国税庁と定期的な情報交換や提案活動等を行っている。これは今後も続けていく。

 知財関係では特許庁の外郭団体である独立行政法人工業所有権情報・研修館(INPIT)とタイムスタンプ保管サービスに関する定期的な意見交換を実施している。またINPITが毎年数回行っている講演会においてタイムスタンプに関する講演やデモ展示、タイムスタンプに関する相談コーナー開設などを実施した。更に中国における知財関連の裁判状況等を研究するとともに日本の知財訴訟の裁判結果等におけるタイムスタンプの利用状況等を調査した。

6-3.トラストサービスの在り方検討ワーキンググループの活動

 次に「トラストサービスの在り方検討ワーキンググループ」だが、活動の後半は総務省の「トラストサービス検討ワーキンググループ」での議論に貢献するための調整を行ってきた。それ以前は、日本とEUの法制度や標準規格、技術規格を比較したマッピング作業を実施した。マッピング作業は今後も整理しつつ、拡充する方向で考えている。

 このワーキンググループの下部組織として「日本版トラストサービス法案検討SWG」を設置し、日本版のトラストサービス法がどうあるべきか議論した。顧問である専修大学の米丸教授に法案をご提供頂き議論を行った。また、第3回会合以降では総務省「トラストサービス検討ワーキンググループ」への提案に関し、「トラストサービスの在り方検討ワーキンググループ」と共催で検討を行った。

6-4.調査研究ワーキンググループの活動

 「調査研究ワーキンググループ」では、セコムIS研究所の佐藤WGリーダーを講師にブロックチェーンに関する勉強会を開催した。
 企画運営部会や、各WGの対外的な活動を合わせるとこの1年間で64回を数えている。

7.2019年の活動

 2019年の活動は、「日本におけるトラストサービスの枠組みの検討と提案」を中心テーマとして進めて行きたい。総務省の「トラストサービス検討ワーキンググループ」や「日EU・ICT戦略ワークショップ」への参画はもちろんのこと、日EUのトラストサービスに関するマッピングの詳細化を行いながら、「ユーザーが安心・信頼してトラストサービスを選択できる仕組み」の検討のための枠組み作りを行いたいと考えている。

 ヨーロッパのeIDAS規則には「法制化」、法と整合の取れた「技術標準」、それに基づいた「監督・監査」、その結果を「見える化」する仕組みが整えられており、これに追随する必要はないが、枠組みとしては大いに参考にすべきだと考えている。

 この他、国税庁、INPITのフォローをさらに行うほか、タイムスタンプだけではなく、電子署名、その他のサービスの側面からも新しい分野への働きかけやブロックチェーン等新規技術の調査研究を行っていきたい。

出典:トラストサービス推進フォーラム

 世の中の動きはめまぐるしく、今後やるべきことはたくさんある。仲間はいくらいてもよい。現在のTSF会員は、どちらかと言えばサービス提供者の視点を持っている企業が多い。今後はユーザーの立場から一緒に議論をして頂ける企業にも会員に加わって頂き、議論を活性化させたいと考えている。

(文責:「日本データ通信」編集部)