ICTの進歩と社会

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一般財団法人日本データ通信協会 理事長 酒井 善則

 「ICT分野の技術進歩は非常に速いため、社会構造自体が近年大きく変わろうとしている」、という主旨の文章を数多く見る機会が多い。確かにコンピュータの処理能力、メモリ容量、通信速度など基本的処理能力(以後処理能力とよぶ)の進歩は非常に早く、ここ10年で大雑把に見てコンピュータ処理能力は10倍以上、メモリ容量100倍以上、通信速度50倍以上となっている。各種能力が10倍になると社会にも大きな影響を与えるのは当然であろう。車、鉄道、飛行機の速度が10倍以上になったら、社会構造は大きく変わると想像される。東京一極集中は更に進むかもしれないし、想像できない社会が実現する可能性がある。耕作地単位面積当たりの食料生産量が10倍以上になっても、農業は大きく変わり、日本の風景も変わるかもしれない。

 回線交換中心の電話網からIPによるデータ、映像中心のネットワークへの進歩、AIの進歩、ビックデータによる新しい知識習得等ICT分野の技術進歩が非常に目立っているが、これらの進歩もやはり各種処理能力の進歩に起因する部分も大きい。IPの基礎となるパケット網、映像を含む各種信号処理、AIの基礎である神経回路モデル、データサイエンスの技術的基礎である統計理論は、皆30年以上前に基礎ができている。もちろん最近30年のこれら分野の進歩も大きいが、計算能力、メモリ容量などの進歩を活用する観点で理論も発展して、かつ成果が実用になったことも否定できない。通信事業においても処理能力が進歩したため、電話から映像へ、回線交換からパケット交換へと大きく変わっていったと考えられる。

 現在わが国ではAIを中心としたソフトウェア人材、大量データ解析人材の不足が問題視されている。AI等のソフトウェア分野の卒業生は多くの分野の企業で引っ張りだこであるとのことであり、起業して成功する若い人の話も耳にする。一方、私の身近な電気通信事業では、通信そのものは儲からなく、携帯では通信そのものはダムパイプということで新しい付加価値を模索する動きが大きい。これからは教育においても技術だけでなくビジネスが大事であるとの意見も多い。私の専門とする工学は元々物理、化学、数学などの自然科学を応用して社会に役立つ製品設計を行う学問分野である。近年のICT分野の発展も、処理能力の飛躍的進歩を活用したシステム設計の結果であり、システム設計の評価関数に社会あるいはビジネスが入ったとしても応用対象が社会科学まで広がるだけで考え方は変わらない。

 日本データ通信協会は人材育成、セキュリティ分野を中心に社会に貢献することを任務としているが、その中で色々な分野での目安を作ることも重要な活動であると思われる。資格等により人材育成の目安作成に貢献して、個人情報保護の指針、タイムビジネス、迷惑メール対策等の活動を通じて、セキュリティ分野からみた製品設計の評価関数の作成にも貢献することが重要と考えている。