タイムスタンプビジネスはまだ黎明期。 カギを握るのは今後の普及促進

セイコーソリューションズ株式会社
デジタルトランスフォーメーション統括部
クロノトラスト営業部
友田 大崇 氏

セイコーという名を聞くと、多くの人は「時計」を頭に思い浮かべるのではないだろうか。時を正確に刻む高い技術力で世界に冠たるブランドをつくりあげたセイコーが、新しい分野へと一歩を踏み出す。その尖兵のひとつとなるのが、セイコーソリューションズ(株)のタイムビジネスである。
シリーズ第1回となる今回は、同社がどのようなサービスと戦略でタイムビジネス事業を展開し、市場を開拓しようとしているのかに追った。

3つの柱でタイムビジネス市場を開拓

 セイコーソリューションズ(株)は、デジタルトランスフォーメーションによって多様化するユーザーのニーズに応えるため、システムやソフトウェア、ハードウェアなどさまざまな領域でサービスを提供している。

 その中でも2002年に事業として発足したのが、タイムスタンプを利用したアプリケーションサービスだ。タイムスタンプとは、電子データがその時刻に間違いなく存在していたことを証明する電子証明書のことを指す。時刻配信業認定事業者(TAA)と時刻認証業認定事業者(TSA)の双方を担う同社ならではの高い信頼性で、「セイコータイムスタンプサービス」、長期署名クラウドサービス「eviDaemon(エビデモン)」、「かんたん電子契約」の3つを主軸に展開している。

「セイコータイムスタンプサービス」

 セイコータイムスタンプサービスは、RFC3161()準拠のタイムスタンプを発行する、最も基本的なサービスだ。電子署名等の機能はなく、タイムスタンプの発行に特化したシンプルな設計になっていることから、
初めてタイムスタンプを導入するユーザーにも使いやすいことが特徴。

 VPN接続とSSL接続の2つのプランが用意されており、SSL接続プランでは社内環境の設定なども必要なく低予算ですぐに導入できるなど、ユーザーの状況に応じたラインナップが揃えられている。また、専門知識を有するユーザーであれば自ら仕様に沿って環境を作り込んでいくことも可能である。

 当サービスは日本データ通信協会の「タイムビジネス信頼・安心認定制度」に基づく認定を受けており、今後さらなる普及が見込まれる電子文書の世界で、大きな存在感を発揮することになるだろう。

長期署名クラウドサービス「eviDaemon(エビデモン)」

 「eviDaemon」は、長期署名フォーマットのデータを生成、検証するサービス。タイムスタンプの発行だけではなく、技術標準の「XML高度電子署名(XAdES)」と「PDF高度電子署名(PAdES)」に準拠したデータを生成することができる。

 高度電子署名とは、電子署名やタイムスタンプなどで保証されたデータの真正性を長期にわたって証明し続けるための長期署名フォーマットである。電子署名やタイムスタンプには有効期間があるため、その期間を過ぎた場合には新たなタイムスタンプによって検証可能期間を延長することになる。「eviDaemon」ではそうした期間の延長が簡単で、指定のフォルダに入れるだけで延長することができる。従来は、延長のための仕組みを自社で開発するなどの手間が必要だったため、ここはユーザーにとって大きなメリットとなる。

 さらに、「セイコータイムスタンプサービス」には一部、RFC3161を理解できていないと利用が難しい点があるのに対し、「eviDaemon」ではフォルダへの保管や、簡単なコマンドラインの使用など、直感的な操作のみで長期署名フォーマットを生成できる。

「かんたん電子契約」

 Webブラウザによる簡単な操作で電子契約を行うことができるのが「かんたん電子契約」。

 「かんたん」の名のとおり、機能を絞り込み、操作を徹底的に簡素化することにサービスの力点が置かれている。つまり、契約について合意するまでの段階を支援する機能はなく、合意後にタイムスタンプを利用して電子契約書で契約を締結することに特化しているのである。よって契約業務のフローには影響を与えずに利用できるところが、このサービスの特徴である。利用に当たっては、契約する当事者のうち1社のみの導入で利用可能だ。

 「かんたん電子契約」も前出の2つのサービスと同様に、ユーザーに複雑な操作を要求せず簡単に使えることが特徴である。

法整備でタイムスタンプのニーズが高まり、導入企業が増加

 昨今、タイムスタンプの導入企業は増加を続けている。一番の理由は、電子帳簿保存法におけるスキャナ保存制度において、一般財団法人日本データ通信協会の認定するタイムスタンプが必要だと規定されたことだ。電子情報による知的財産の真実性確保に対する意識の高まりも大きい。さらに、例えば建築業界では建築確認手続き申請において申請図書を電子署名とタイムスタンプを利用することで電子申請できるとした新たな指針やガイドラインが策定されるなど、さまざまな環境変化の後押しを受けている。

 一定期間の保管が義務付けられている国税関係帳簿書類なども保管コストの問題から電子化が急速に進んでいる。国税関係書類の保存期間は7年間であり、その期間は文書の真実性を証明し続ける必要がある。「eviDaemon」を利用すれば法的要件である長期的な文書の真実性も問題なく行える。

 導入企業は、町の小売店から大企業までさまざまだ。事例を挙げると、ある大手生命保険会社では、ライフプランナーのノートPCに申込書を入れ、保険の契約者はタブレットで署名、契約書にはタイムスタンプを押して保管…といったように、全行程をデジタル化している企業もあり、省力化や文書の紛失リスクなどを抑えることができている。

 コスト削減事例でいうと、ある信託銀行が顧客に対し月1回郵送していた取引レポートをタイムスタンプの付いた電子書類での送付に切り替えたことで、1,000万円以上の削減になったというケースもある。

 また、文書の郵送が不要になるとやりとりがスピーディになるため、従来ではコンプライアンス上やや問題のあるような運用になっていた契約を、完全に正常化することができたという事例もある。

タイムスタンプ、今後の展開は

 タイムスタンプ自体、まだ認知されているとはいえない状況である。そして、タイムビジネスを取り巻く環境は法改正などの大きな変化のうねりの中にある。セイコーソリューションズ(株)では大胆な仕掛けよりも慎重に機会を見計らいながら、アクションを絶やさずに続けている。

 一例としては、タイムスタンプを5年間無制限に発行でき、「eviDaemon」も組み込まれているNASのパッケージ製品を家電周辺機器メーカと協力して開発した。携帯電話を知らない人がいないのと同じように、誰もがタイムスタンプのことを知っている、そうした状態になるまでは普及啓発を続けていかなければならない。その狙いから生まれた新製品である。

 こうしたアクションを継続しながら、企業にとってタイムスタンプを導入するボトルネックとなっている要因を取り除いていきたい。例えば、タイムスタンプには本当に「法的な有効性」が認められるのか、という疑問。ガイドラインでは「有効な手段である」とされているので、こうした認識をどれだけ広く認知してもらうことができるか。その取り組み次第によって、市場の爆発的な変化が期待できる。

※RFC3161…タイムスタンプの国際標準に準拠した規格