関西地域におけるIoT実装、ICT利活用の最新動向と政策

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総務省
近畿総合通信局長
安藤 英作 氏

IoT・ビッグデータ・人工知能の時代の新しいインフラ

 今日は私ども、近畿総合通信局のICT行政の考え方、動向についてお話しさせていただきたい。近畿総合通信局は全国で11ある地方支部部局の1つであり、関西の2府4県を所管エリアとしている。私ども地方部局の組織の仕事は、総務本省、さらには内閣官房や国会で行われる様々な企画立案に基づく行政遂行である。社会の動向、社会環境、技術環境を反映して政策が作られ、それらに基づき私どもが行政を関西地域において行う。
 したがって、近畿総合通信局の行政課題や動向をお伝えするにあたっても、まずは政府におけるICT行政の仕組みや課題をお伝えし、それらに基づく私どもの施策をお話ししたい。

 我が国の電気通信事業者等が長年を通じて構築してきたインフラは、現状において世界に冠たるものがある。このインフラ環境を維持し、さらに発展させてすることが、政策において最大の目標になってくると理解している。

 国民の皆様のICT活用は、情報のダウンロードを中心とする活用の仕方、関わり方がその中心になっているだろうと思う。したがって従来はインフラもダウンロードが中心の活用方法に適するものだった。しかし、これからはアップロードがむしろ中心となってくると考えられる。様々なセンサー類、カメラから情報が吸い上げられ、それがサイバー空間上で様々に分析・加工され、現実を制御していく世界になってくる。そうした活用の仕方をサポートするためのインフラになってくる。

図表1:IoT・ビッグデータ・人工知能の社会浸透に伴うデータ量の増大
出所:総務省近畿総合通信局

期待される第5世代移動通信システム(5G)

 その典型と考えられているのが移動通信システムである。移動通信システムは、これまでは速さを競ってきた観がある。しかし、これから始まる5Gの普及においては、同時接続や超低遅延などの機能に注目が集まっている。超低遅延によって、自動走行、自動運転等の新しいサービスが実現できる点に人々の関心が集まっているのである。

 5Gは、IoTの重要なインフラとして活用されていくと想定されており、我が国では2020年のオリンピック・パラリンピックの時期にめがけ実用化していこうとしている。関西では2020年以降注目すべきイベントがある。経済的価値も非常に大きなものがあり、大きい市場を形成することが期待されていて、情報通信の世界だけでなく社会経済活動に大きなインパクトをもたらすことが期待されている。であるがゆえに、インダストリー4.0やソサエティ5.0というものにつながっている。

図表2:第5世代移動通信システム(5G)
出所:総務省近畿総合通信局

データ利活用活性化が大きな課題

 こういうインフラ環境、あるいはニーズがある中で、それを受け止めるマーケットについては、日本は諸外国に比較して弱い点がある。図表3に新しいIoTの時代に実装が期待される商品・サービスへの需要意向を示したが、非常に保守的で消極的な傾向がある。他方、こうした技術を仕事のプロセスや製品に利活用しようという企業の意識も、消費者同様消極的な傾向を示している。

図表3:IoT時代の新サービスの利用意向・利用率
出所:総務省近畿総合通信局
図表4:立ち遅れているデータ利活用
出所:総務省近畿総合通信局


 要するにインフラ、技術についてはトップバッターだが、これを使いこなしていく消費者や企業の意向は必ずしも強いとは言えない。こうした供給者側と需要者側とのギャップをどう埋めていくかが大きな課題になる。

地方に求められる独自のデータ活用策推進

 そこに政策の役割があり、成長戦略、IT戦略、地方創生といった観点で様々な施策が語られている。議員立法により「官民データ活用推進基本法」が成立しており、「官民データ活用推進基本法」の中で特に注目すべきは、「第2章 官民データ活用推進基本計画」であり、国が計画を立てるだけではなく、国民にとってより身近である地方自治体においても計画を立案していくことが求められている。

図表5:政府の動き
出所:総務省近畿総合通信局

 こうした政府全体の動きを受けて、総務省では平成28年9月より「地域IoT実装推進タスクフォース」を設置し、各地域においてIoTの実装について検討を開始した。ロードマップを作り、需要を喚起するためのビジョンを示している。

図表6:「地域IoT実装タスクフォース」について
出所:総務省近畿総合通信局

 このロードマップを実現するために2回にわたる提言を行っている。
 平成28年12月に発表された最初の提言では、縦・横・斜めの体制を確立する行動を開始するべきとした。すなわち、「(1)“縦の糸”」としてロードマップの主分野ごとに、各分野の機運を高めるため、関係する府省、団体等を中心とした推進体制を確立すべきであるとし、「(2)“横の糸”」として官民連携の全国ネットワーク、全国の自治体における情報連携体制の構築、「(3)“斜めの糸”」として11の地域ブロックごとに、自治体、関係団体、民間企業等の民産学官の緊密な連携を実現する体制の構築を提言した。しっかりとした体制を構築することによって、総務省全体としてIoTの実装を進めていく。

図表7:地域におけるIoT実装に向けた総合的推進体制の確立
出所:総務省近畿総合通信局

 この第一次提言の半年後、平成29年5月24日に第二次提言がまとめられた。ここでは、PDCAサイクルを回していく中で体制整備計画最低の段階、環境整備という意味で人材を育成していく段階、実際に積極投資をしていく段階、さらに普及促進をしていく段階を想定し、そうした段階に応じた予算要求をしていく考えを明らかにした。このサイクルは今年度より動き始めている。

近畿地域IoT実装推進連絡会を核にした近畿での取組

 これらの提言を受け、近畿総合通信局では近畿情報通信協議会の中に「近畿地域IoT実装推進連絡会」という組織を作り、ここで近畿におけるIoT実装のプロジェクトの立ち上げを目指していく。来年度31年度の予算確保に向けて、この連絡会を動かしていくことになる。「ロードマップの実現に向けた第一次提言」の“斜めの糸”に相当するものとして、「近畿地域における超スマート社会に向けた連絡会」(平成30年4月27日)を設立し、近畿厚生局、大阪労働局、近畿農政局、近畿経済産業局などを始めとする各省庁の関係機関に参加してもらい、それぞれに分野において適切な助言をいただくということで進めていきたいと考えている。

図表8:近畿地域IoT実験推進連絡会について
出所:総務省近畿総合通信局

各省庁との連携強化

 さらに近畿では各省庁との連携を一層強めようと考えている。IoT実装時代を迎えれば、例えば農業分野での実装を進めるにあたって、近畿農政局から農家や農業に関する知識やネットワーク、人脈を借りていくことが必要になる。一方、農政局にとっては、農業のIoTを用いた生産性の向上、人材の育成などにつなげることが期待できるといった点で、私ども近畿総合通信局がお役に立てると考えている。

 この資料を作成した後に、連絡会には近畿財務局と大阪税関にも参加していただけることになった。各組織ともに、それぞれの分野でICTの利活用に対し非常に強い関心を持っている。結果的に皆様と様々な国の機関との関わりは強くなり、あるいはこうした機関が皆様を支援するプロジェクトも出てくるだろうと大いに期待をしている。今後、この連絡会を通じて情報の共有を進めていくことになるが、実際の取組にあたっては、個々の機関の施策やプロジェクトと連携してアドホック推進チームを結成していくこともありえる。他省とアライアンスを組むことも我々としては大いに期待をしている。

 具体的なケースとして、今年の2月に経済産業省の近畿経済産業局と相互協力合意書を締結し、ほぼ全面的なアライアンスを組むことになった。産業界に強いネットワークを有しており、産業分野に関する広範な知見を有する近畿経済産業局は、たいへん強いパートナーになりうると考えている。これは近畿ならではの率先した取組だが、いずれの本省にも了解を取りながら、こうした例が数年のうちに全国に広がっていくことが期待されている。


図表9:近畿経済産業局との連携事業
出所:総務省近畿総合通信局
図表10:関西ものづくりIoT推進連絡会議
出所:総務省近畿総合通信局

 さらに金融機関とも協力関係を進めている。池田泉州銀行と1月に中小・ベンチャー企業への支援について提携を行った。池田泉州銀行は2年ほど前に大阪労働局とも提携関係を結んでおり、これがおそらく金融機関と行政とが提携関係を結ぶ全国で初めての動きとなった。私どももこうした先例にならい、協力関係を他の金融機関に対しても広げていきたいと考えている。

「インバウンド」に対する取組

 関西の経済に関する地域課題の一つが「インバウンド」に対する取組である。その最大のものが多言語対応で、(一財)関西観光本部や運輸局と共同で取り組んでいる。JR西日本の取組がよく知られており、関西観光本部が取り組んでいる多言語コールセンターも非常に注目される。金融機関においても同様な取組が始まっており、情報通信研究機構(NICT)が開発した多言語翻訳システム「VoiceTra(ボイストラ)」を郵便局の窓口に導入しているし、それに先立って京都銀行でも同システムの利用を開始している。

放送コンテンツの海外展開の促進

 海外の放送局で日本に関する放送番組を流してもらい、「インバウンド」の流れを促進し、あるいは日本の物産やコンテンツの輸出促進に役立てようという取組も進んでいる。そうめんなど奈良の食・歴史・文化等をベトナム国営放送と協力し、ベトナム人観光客向けに取り上げた奈良テレビ放送(株)の番組が放送コンテンツ海外展開助成事業(平成29年度予算)に採択されるなど、実績が増えてきている。

南海トラフ巨大地震への対応

 さらに近畿の課題として南海トラフ地震等災害の脅威である。近畿地方が被災し、大阪湾の近辺が損害を受けるケースが想定され、企業様もその影響を心配されている。そんな中で私どもも放送ネットワークの強靭化、災害時における情報伝達手段の整備など様々な取組を行っている。この中で、自治体と連携した漁業無線局非常通信訓練は全国初の取組であり、近畿以外の地域にも広がりつつある。


図表11:近畿地域における災害時情報伝達手段の整備
出所:総務省近畿総合通信局
図表12:漁業無線局非常通信訓練
出所:総務省近畿総合通信局

青少年インターネットリテラシー向上への取組

 関西では青少年インターネットリテラシーの向上について、関西の自治体、教育委員会、警察などとともに熱心に取り組んでおり、私どももその中でできることとして、情報共有の場所としてスマホ連絡会(近畿)という組織を平成24年から運用している。2府4県の警察、教育委員会、中高学校連絡会やPTA、学識経験者、NTTなどの電気通信事業者、グーグルなどの世界的なコンテンツ事業者などの参加を得ている。これらは全国的にも特徴的な取組であり、四国や北陸など近辺の地域からも注目を集めている。

 こうした取組を行おうとすると、得てして行政組織の間で縄張争いが起こりがちだが、どういう理由からか、関西では社会的な課題の解決に向けてはそうしたことが起こらず、各組織が一致協力して取り組む文化があるように感じている。皆様におかれましても様々な局面でご協力を賜りたいと考えている。

(本稿は、2018年6月15日に開催された日本データ通信協会主催「第47回ICTセミナー」における安藤氏の講演『関西地域におけるIoT実装、ICT利活用の最新動向と政策』の講演内容を編集部で取りまとめたものである。)